笈川博一『古代エジプト』
古代エジプトの通史概説。副題は「失われた世界の解読」。
先に結論を述べてしまうとかなり読みやすく、便利な概説書である。
というのはまず総論にあたる通史概略部がありここで見通しを得た後、以降各論として「宗教と神話」、「死と来世」、「言葉と文字」、「文学作品」のトピック毎に章が立てられ、最後に古代エジプト人を代表してラアメス2世の評伝的な章が付く、という構成になっているためだ。
恥ずかしい話だが、中世エジプトにはそれなりに関心があるものの古代エジプトはさっぱりだった人間としては、このわかりやすさは非常にありがたかった。
例外的に読みにくいのは「文学作品」の章で、ここは古代エジプトの文学作品についての概観はほどほどに、実際に文学作品の和訳が掲載されている。著者曰く「原文の持つ雰囲気をなるべく活かし、日本語として無理なく読める方法は、あえてとらなかった」とのことで、さして分量があるわけではないのだがなかなか晦渋な訳文となっている。先に他の章を読んでしまってから戻ってきてもよいだろう。
原著は1990年の出版で、14年の文庫化に際し手直しはされているようだがおそらく内容として古くなっているところはあるかもしれない(ただそれを判断する能力は今のところこのブログの管理人にはない)が、見通しを得た上で叩き台とするには非常に手頃な良書であったと言える。