松浦義弘『ロベスピエール』


 世界史リブレット人の一冊。副題は「世論を支配した革命家」。
 
 世界史リブレット人の帯の文句は「人をとおして時代を読む」であるが、フランス革命を体現する人間を一人選べと言われたら、個人的にはロベスピエールはまず最初に検討する人物だろうと思う。
 フランス革命は近代の諸条件が一揃い一気に出揃った画期であると同時に、パリが流血の巷と化した時代でもあった。ロベスピエールは、本書の言葉を借りれば「男性普通選挙のために戦い、死刑や奴隷制を告発し、危機にある共和国を防衛し、すべての人々に生存権を要求したとして称賛された革命家」であると同時に「恐怖政治と結びつけられ、激しい嫌悪の情を引き起こしてきた」。フランス革命の二面性が、まさにロベスピエールという一人の人間の中に共存していると言える。
 もちろん、革命が彼一人の思うがままになったわけではなく、彼が独裁を敷いたと見なされた時でさえ(少なくとも最初は)世論の支持が背景にあったことが本書では示されている。ではなぜ、ロベスピエールはフランス革命の二面性を体現するような立ち位置に収まることになったのだろう。

 一つは、彼が類稀な弁論家であったことが関係していよう。本書によると彼は弁論の技術面では突出したものはもっていなかったが、「誰に訴えるか」という面では明確な指向性を持っていた。近代前夜はメディアの力が強く働き始める時代である。ロベスピエールは自分の演説を議会の外へ訴えることを意識していた。
 意外なことに、革命前のロベスピエールは社会的な不満はあっても反体制的な考えを持っていたわけではなく、さして過激な人物ではなかったらしい。しかし、その頃から既に彼が用いていた二項対立的な論の立て方や、「徳」の重視などが革命下の状況と合致し、上記の議会の外への指向性、そして民衆が何を求めているかの適切な認識とも相まって強力な世論の支持を得ることになったようだ。
 ただこれは結局のところ味方と(存在の曖昧な)敵を認識の上で作り出し、その「敵対者」に対して攻撃的な態度を取ることになっていく。そうして恐怖政治を推し進めたロベスピエールは、ついにクーデターによりその座を逐われ断頭台の露と消えることになるのである。

 本書はロベスピエールの生涯についてコンパクトに示しており、著者のロベスピエール像も明確に示されている。フランス革命の流れ自体は著者も述べている通り当然の前提とされているところはあるので少し予備知識は必要かもしれないが、面白い一冊となっていると言える。
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鉄勒京二

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