近況・新刊情報と最近読んだ本など

 ハンニバル戦争を描いたマンガ、『アド・アストラ』がめでたく完結しまして、遅ればせながら私も読了しました。歴史マンガには厳しいご時世ですが、ちゃんと面白さを保ったまま完結したのは素晴らしいことだと思います(百年戦争モノの『ホークウッド』も続きをとても楽しみにしていたんですが打ち切り近い形で終わってしまいましたし)。現在も続いている歴史マンガだと古代エジプトが舞台の『碧いホルスの瞳』や、近世フィレンツェの女性画家が主人公の『アルテ』なんかが面白くて好きですがあのあたりもちゃんと完結まで続いてほしいものです。
 
 

 さて、新刊情報。
 中公新書5月に竹中亨『ヴィルヘルム2世 ドイツ帝国と命運を共にした「国民皇帝」』。まさかヴィルヘルム2世の評伝が出るとは……中公新書の近現代ドイツものの評伝はここのところ良書が多いので本書にも期待です。
 同月、『イスラーム神学』や『イスラーム思想を読みとく』の松山洋平先生編著で作品社から『クルアーン入門』なる本が。井筒先生、小杉先生に続いて三冊目の邦語クルアーン解説ということになるんでしょうか。
 角川選書からこちらも5月、大石泰史『今川氏滅亡』。以前同じく角川選書から出た平山先生の『武田氏滅亡』は何故分冊しなかったかよくわからない750頁もの大冊でしたが、こちらは300頁ほど。
 講談社学術文庫6月、興亡の世界史の文庫化第四期第一弾は青柳正規『人類文明の黎明と暮れ方』の模様。

 以下、最近読んだ本。
 

■高野秀行・清水克行『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』
 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』の二人がこんどは書評というか読書会をやろう、という企画で組んだのが本書です。出てくるのは『ゾミア』、『世界史のなかの戦国日本』、『大旅行記』、『将門記』、『ギケイキ』、『ピダハン』、『列島創世記』、『日本語スタンダードの歴史』の八点。なかなか濃いラインナップでタイトルと概要だけ知っているのが五点で通読したことのある本は一冊もありませんでした(『大旅行記』くらい読んどけよという声が聞こえてきそうですが)。
 本の合評めいてはいるんですが、話題がお二人それぞれの専門に繋がって思わぬところへ広がっていったりするのでそこだけ取っても面白い本です。紹介されている本を読もうと思うか否かにかかわらず、読書体験の面白さというものが分かるので前著と併せて是非オススメしたい一冊ですね。


■西牟田靖『本で床は抜けるのか』
 三年前に単行本版が出た時から気にはなっていたんですが今回文庫化されたということで購入。普段なら人文科学・社会科学に関わらない本は紹介しないんですが、このテーマとなると読んだ以上無視するわけにはいかないのはこのブログの読者の方ならお分かりいただけることと思います。
 私の蔵書は大部分歴史書で、それを含む人文書で現状2500冊ほど(小説やマンガを入れると3000冊弱くらい?)になりますけれども、本というものは寂しがり屋で仲間を増やそう増やそうとするもので、気がついたら生活スペースが本に圧迫されているなどということは愛書家であればまあ多かれ少なかれ身に覚えがあることと思います。
 本書は著者の「これ(蔵書の重さ)床ヤバいんじゃないの?」という気がかりから出発し、実際に本の重みで床が抜けた事例を探したりしながらどんどん話が広がっていって愛書家たちの蔵書にまつわる悲喜こもごもが笑いと哀愁を誘う実録ルポになっています。電子書籍に関しては本書を読むとやっぱり紙の本がいいなあという個人的な結論に至りました(もちろん、電子書籍の利便性が今以上に向上すればその限りではありませんが)。
 ラストの展開はノンフィクションとしては出来すぎなくらいエグい(※個人の感想)ですが、そこも含めて読んでいい本かと思います。


■斎藤慶典『フッサール――起源への哲学』
 この間メチエから出ている斎藤先生の井筒俊彦論『「東洋」哲学の根本問題』を紹介しましたが、そう言えば斎藤先生の本一冊積んでたなあということでこちらも読書。『~根本問題』を読んだ後だと、先に書かれたこの本から斎藤先生の関心がある程度一貫していることが分かるので、本書もフッサール哲学の本であると同時に斎藤先生の色もだいぶ濃い一冊だなあと。
 それはそれとして、現象学には科学哲学方面から触れたので哲学の方法論として理解していたんですが、現象学そのものを突き詰めていくとこういう見方もできるのかという気付きを得たのは収穫。また、俗流の独我論と現象学がどう違うのかという説明、出発点が現象そのものにあるというところなど、いろいろ勘違いが正されて大いに勉強になりました。斎藤先生はメチエでレヴィナス本も書かれているようなのであれも読んでみたいなあと思っています。
 それにしても、本屋で現象学のコーナーに行くとやたらハイデガー関連の本ばかり並んでいて現象学の祖であるはずのフッサール関連の本はあまり並んでいないのが寂しいですね。もう少しフッサールの解説や入門書が書かれてもいいと思うのですが。


■ポール・ストラザーン『90分でわかるカント』
 ロールズやハーバーマスのような倫理に近い分野であれ、現象学のような方法論的哲学であれ、関連する本を読んでいるとカントの名前がちょいちょい出てきます。カント哲学も色んな現代思想の前提となっているところはあるので読んどかなきゃなあと思い積読にしていたこれを手始めに。
 前にこのシリーズのサルトルの巻を読んだ時に分かってはいたことなんですが、非常に読みやすく(一時間くらいで読める)、主題となっている哲学者(本書の場合はカント)の人生と人となりについてはよくわかるものの、その思想についてはあんまりよく分かりませんでした。まあとっかかりにはなったので引き続き別の本を読んでいこうと思います。


■加藤秀俊『社会学――わたしと世間』
 社会学という学問、興味はありますし、法社会学は大学でかじったので若干の予備知識はあるんですが、社会学一般について勉強したことはなかったので何か手頃な入門書がないかなあと探していたところ今月の中公新書の新刊で出ていたので購入。中公新書のことなのでまあ大外れはないだろうと思って買ったのですが……冒頭から学問は科学と人文学に分けられるのであって「社会科学」などというものはない、とか社会学には文学性が不可欠である、とかゆるめの文体に似合わず内容的にはなんとも癖の強い本でした。
 得るところがなかったわけではないですが、もうちょっと他の本も読んでみようと思わせられる一冊だったように思います。
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鉄勒京二

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当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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