ルネサンスを先駆けた皇帝/吉越英之


 副題は「シュタウフェン家のフリードリッヒ2世」。
 このブログの管理人含む一部の人に待ち望まれていたフリードリヒ2世の評伝が、つい先年の九月に出版されたのである。
 
 日本語でフリードリヒ2世を扱った本と言えば、カントロヴィッツの「皇帝フリードリヒ2世」の和訳があるだけだった(しかも自費出版につき、かなり入手困難)。同名のプロイセンの君主で、「大王」と呼ばれるフリードリヒ2世を扱った本はそれなりにあるのだが……。

 ところで、カントロヴィッツの「皇帝~」をどうにかして手に入れられないものかとネットで古書店のサイトを回っていた時にこの本をたまたま見付け、喜び勇んで注文しようとした時、ふと、著者の経歴を見て一抹の不安を覚えた。
 著者は歴史学に関わる学者でもなければ、ジャーナリストというわけでもなく、工学博士だというではないか。果たして金属工学科を卒業した人物が、このややこしい時代の一番ややこしい皇帝について、調べきれたのだろうかと思わずにはいられなかったのである。
 しかし、どうやら心配は無用だったらしい。むしろ、伝記作家にありがちな一人の人間に惚れ込んだが故の粉飾も、理系の人物であるがためか使われておらず、しかも史料もかなり読み込んでいるように見受けられた。

 文章は読みやすい。年代に沿って歩みを追っていき、またそれとは別に、彼の文化的な事業については一カ所でまとめられている。しかも、文章の水増しが無く、かなり詳しい。アル・カーミルから天体観測儀を贈られた時期など、初めて知った。
 フリードリヒの台詞や書簡なども極力一次史料から引用してあるとのことで、かなり信頼がおける。
 このフリードリヒという特異な、時にアンチキリストと呼ばれる人物は、未だキリスト教的価値観を引きずるヨーロッパにおいては扱いかねる部分もある。著者の目的通り、日本人の目から見たフリードリヒ像、というものを確立することにかなり成功していると思う。

 そうそう売れる本ではないと思うが、名著である。

章立て

一 ドイツ・イタリアの政治状況
二 神聖ローマ帝国皇帝への道
三 シチリア王国平定
四 破門皇帝に率いられた十字軍
五 立憲専制君主国家の建設
六 息子の叛逆と二度目のドイツ遠征
七 文化の中心地としての宮廷―学者皇帝
八 教皇庁との最後の戦い
九 皇帝の最後
エピローグ―その後のシュタウフェン家

 しかし史学雑誌の回顧と展望の号にこの本が紹介されていなかったのはどうなのだろうか……まあ、著者は歴史畑の人ではないが……。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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