吉國恒雄『グレートジンバブウェ』


 副題は「東南アフリカの歴史世界」。本書で扱われるグレートジンバブウェは東南アフリカにおける最大の遺跡である。
 
 アフリカは広い。西アジア史に関心があると北アフリカのアラブ・ベルベル圏についてはある程度イメージができてくるが、サブサハラ・アフリカ(いわゆるブラックアフリカ)になると検討がつきにくい。アジアと一口に言っても例えば中国とイランをひとまとめにして扱うことができないのは明白だと思うが、これがサブサハラ・アフリカになるとなんとなくぼんやりとしたイメージでひとまとめにしてしまいがちである。
 ところが、同じサブサハラ・アフリカでも西アフリカのマリなどが塩金交易で北アフリカとのコネクションが強かったり、東アフリカのモンザンビーク以北ではスワヒリ世界が広がっておりインド洋世界に開けていたのに対して、東南アフリカは比較的孤立度の高い地域であり、また人々を取り巻く生活環境も過酷であったということが本書では前提として語られている。グレートジンバブウェ周辺の歴史の叙述に入る前に、まずここから押さえねばならないわけだ。

 本書の語るところによれば、この自然環境は国家形成にも影響を与えていたようだ。サバンナが広がる地域は農業に向かず、人の集住を阻み、集権的な国家の成立を阻害する。人口密度が高くなれば周辺の自然資源はたちどころに消費されてしまう。ただ一部、牛牧によって牛という財産が、ユーラシア大陸と同じく財産の私有という観念を発達させた地域があったことが興味深い。

 このような環境の中で、グレートジンバブウェは相対的には農耕に向いている地域に成立した王権であり、都市グレートジンバブウェの住民は農民が大半であった(つまり、農民が都市に集住している)という。また、アフリカ東南部のインド洋交易においてリンポポ川が環境の変化により幹線として機能しなくなり、グレートジンバブウェに近い北のサビ川流域へと人口が移っていった。
 ただ、これはあくまで相対的・一時的なもので、上でも述べた過酷な環境はグレートジンバブウェ周辺でもあまり変わらず、長期間の都市の維持は周辺の自然資源の消費を招き、グレートジンバブウェ国家が疲弊し衰退していき、また一方で交易ルートの変化(1500年頃には地域内の交易路がグレートジンバブウェ周辺のサビ・ルンデ川流域から北のザンベジ川流域へと変わった)がグレートジンバブウェの力を削いだという見方を著者は示している。

 本書の後半では、グレートジンバブウェの衰退以後、その後継国家と見られてきたムニュムタパ(モノモタパ)国とトルワ国、チャンミガレ国の展開についても述べられている。トルワ国からチャンミガレ国への交代についてはその経緯についてポルトガル人も報告をしているらしく、チャンミガレ・ドンボというチャンミガレ王朝の始祖の活躍はまさに英雄と呼ぶに相応しいものであったようだ。
 近代については本書の射程ではないが、ローデシアという英国の植民地から現代ジンバブウェが立ち現れるにあたって、グレートジンバブウェの存在がナショナリズムの形成に役立ったことを示して本書は閉じられている。
 なお、折に触れてグレートジンバブウェに関する研究史も述べられているが、これも政治的な影響を大いに受け右往左往していたようで、学問の難しさを思わずにはいられない。

 全体を通じて文章は平易であり、一般の読者と前提を共有しようという気遣いが随所に見られる。にもかかわらず冗長にはなっておらず、大変な良書であった。
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鉄勒京二

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