南川高志[編]『B.C.220年 帝国と世界史の誕生』


 山川出版社の新シリーズ「歴史の転換点」の第一回配本。
 
 紀元前220年はポリュビオスの『歴史』の記述が始まる年である。ポリュビオスは、この年を境にローマが広域支配を強めていく(=「帝国」化していく)過程が始まったと考えた。一方中国に目を向けると、前221年に秦が六国制圧を完了し、チャイナ・プロパーの統一を完成させた。少し遅れて紀元前209年頃、北アジアでは匈奴の冒頓単于が即位し、後のモンゴル帝国にも利用されるような遊牧国家の基本システムを作り上げる。
 本書の構成としては全四章中三章がローマを扱うものであり、一章が秦漢帝国、そして5本ある2ページほどのコラムのうち一つで匈奴が扱われている。比重は明らかにローマ寄りでそこは問題かと思うが、扱われている内容自体は面白い。

 第一章ではイベリア半島におけるローマの展開を軸に、「属州」なるものの成立について考えていく。ローマが帝国化するにあたって属州という仕組みの存在は所与の前提となっていくが、その初期においては属州という統治の装置の基本的性格は定まっておらず、紆余曲折を経て確立することになる。
 第二章は東地中海におけるローマの伸張について扱っている。まず、マケドニアやセレウコス朝といったヘレニズム諸国家やギリシアの諸ポリスが競合しつつ並立していた東地中海にローマが参入した。最初は現地の文脈に則り、競合する諸勢力の一つとして行動していたが、ローマは徐々にその文脈から逸脱し並ぶもののない存在として振る舞い始める。
 第三章においては元首政期まで時期を降らせ、各地の「ローマ化」の実情について考察される。被支配民のローマへの態度は多様であったようだが、それが元首政期には(地元の有力者や都市の下での様々な差異を温存しつつも)安定しはじめる。

 ローマを取り扱った以上の部分ではカルタゴやセレウコス朝、アンティゴノス朝などと戦いながら支配領域を広げ、支配を根付かせようとする過程が分析されており、ローマの帝国的支配(これは帝政ローマの成立とイコールではない)が領域の面でも、統治の実態の面でも(ローマの支配層だけでなく被支配民の視点からも)確立していく過程が分かりやすく述べられている。

 前三章がローマ帝国を扱っていたのに対し、第四章では対比対象として秦漢帝国の成立が述べられている。中華帝国の基本形を一度始皇帝が成立させ、それを秦の崩壊の後、漢が武帝までの時期をかけて再確立させていく過程が語られている。このあたりは分量が足りないのかやや駆け足だったが冨田『武帝』と併読することで理解が深まるだろう。

 本シリーズは山川出版社の70周年記念で立ち上げられたとのことである。ここ最近世界史のハードカバーでのシリーズものの出版がなかったが(一番最近のもので言えば講談社の「興亡の世界史」だろうか。スタンダードな通史シリーズとなるとさらに遡る)、世界史関連の老舗として山川には期待したいところである。
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