アフマド・Y・アルハサン、ドナルド・R・ヒル『イスラム技術の歴史』


 主に西アジアにおけるイスラーム時代の技術史書。
 
 アラビア科学史/イスラーム科学史に関する本は探せばそれなりに数があるが、こと技術史となると数が極端に少なくなる。本書は原著の出版が1992年、邦訳の出版が1999年であるが、未だ日本語では類書のない包括的なイスラーム時代西アジアの技術史の総覧である。
 技術史とは言っても扱われるのは狭い意味での工学技術だけではない。目次から順に拾うと、「機械工学」、「建築と土木技術」、「軍事技術」、「船舶と航海術」、「化学技術」、「織物、紙、皮革」、「農業と食品技術」、「採鉱と冶金」、「技術者と職人」となる。いずれにせよ、一部の例外(佐藤『砂糖のイスラーム生活史』、同『イスラームの生活と技術』、真道『イスラームの美術工芸』、清水『イスラーム農書の世界』程度だろうか)を除けば日本語で読める類書はなく、貴重な情報ばかりである。
 なお本書では純粋に技術のみを扱おうとする傾向が強く、技術者たちの名前は出てくるがその伝記情報はあまりない。また、しばしば詳細については論ずるスペースがないという旨断る記述も出てくる。ただそれでもA5判で300頁超の内容があり、いかに書くべきことが多いかわかるというものである。

 技術の起源や伝播についてやや論争的な部分はあるものの、基本的にはカタログ的な記述に終始している。ただ、エピローグではこの地域における技術進歩の鈍化・衰退の原因について考察しており、著者の見解が示されている。この部分に関しては、鵜呑みにすることなく最近の研究とも突き合わせることが必要だろう。
 それはさておいても全体を通じて有用な書物であることに変わりはなく、西アジア史上の生活や文化を知る上では読んでおきたい一冊となっている。
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鉄勒京二

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