近況・新刊情報と最近読んだ本など

 先日、休みを利用して日本で唯一淡水に浮かぶ有人島である琵琶湖の沖島に行ってきました。
 当地の神社にあった説明書きによると沖島に人が住み始めたのは源氏の落ち武者が始まりだとする伝承があるようです。平家の落人集落の伝説なんてものは西日本を中心にどこにでもありますが、源氏の落ち武者伝説というのは実に珍しいことで。
 島にはコンビニも床屋もありませんが、郵便局はあり、寺がふたつと神社がふたつありました。電話線は湖底ケーブルが使われているとのこと。帰りは温泉に入ってきましたが、なかなかおもしろい旅先でした。

 さて、新刊情報。
 集英社新書7月、佐藤賢一『テンプル騎士団』。集英社新書や講談社現代新書でちょくちょく佐藤先生は歴史ものの新書を出していますが今回はテンプル騎士団の模様。著者が著者ですし十字軍というよりはヨーロッパで繰り広げられた活動に焦点が当たるんでしょうかね。
 中公新書7月、なんと蔀勇造『物語アラビアの歴史――知られざる3000年の興亡』 。ここ最近アラビア半島での先史考古学の分野は日本語でも読める資料が色々出版されていますが、蔀先生の本となるとそのあたりなかなか面白い内容が期待できそうです。
 吉川弘文館からは7月、人をあるくシリーズの久々の新刊、山口博『北条氏五代と小田原城』。同月の歴史文化ライブラリーからは稲葉継陽『細川忠利――ポスト戦国世代の国づくり』、尾脇秀和『刀の明治維新――「帯刀」は武士の特権か?』
 講談社選書メチエ7月、岡本隆司『近代日本の中国観――石橋湛山・内藤湖南から谷川道雄まで』。岡本先生、同じ月にちくま新書からも本を出すはずですがペースが早すぎでは……?

 以下、最近読んだ本。
 

■池内恵『シーア派とスンニ派』
 池内先生の中東ブックレットの二冊目ということになるようです。普段の池内先生の文体というのはよく言えばキレがあって、悪く言えば攻撃的なんですが、今回は逆に良くも悪くも普通の時事本でした。ただ前著と同じく、見取り図を得る分には便利かと思います。
 内容としては主に中東政治を宗派に関心を絞って記述してあります。どこかで読んだような内容も多いのですが、整理の仕方がうまく、宗派教義の対立というよりは宗派コミュニティどうしの利害対立の面がある、という説明はなるほどというところ。また、レバノンの国内事情についての簡潔な説明はありがたいところ。
 個人的に目新しかった論点と言えばニューヨーク・タイムズのフリードマンとサウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子のコンビがイラン革命に対抗するためにサウジが保守化したのだという見方を取っていることに対する批判くらいでしょうか。
 なお、参考文献リストは紙面からは割愛され新潮社のページの方に掲載されています。


■熊野純彦『レヴィナス――移ろいゆくものへの視線』
■斎藤慶典『レヴィナス――無起源からの思考』
 レヴィナスに手を出した理由は単純で、斎藤慶典先生の井筒本とフッサール本が面白かったので同じくメチエから出ているレヴィナス本も読んでみようと思った、ということに尽きます。
 斎藤先生のレヴィナス本はKindle版もあるんですが、紙でほしかったのでAmazonで注文し、それが届くまでの間に熊野先生の方を読んでいたんですが、これがまあ読んでも書いてあることがさっぱり分からない。もとも二本の別の論文だったものを一冊にまとめた本だとのことで、最初に読むべき本ではなかったなあと今更ながら思っています(本屋で見つけて手にとったので、熊野先生が本書とは別に『レヴィナス入門』という本を出している、ということを知らなかったあたりが駄目だったのでしょう)。いずれ再読に挑戦したいところです。
 斎藤先生の本の方はさすがに読みやすく、いつもの斎藤哲学の色が濃い部分はあるんですが、レヴィナスの倫理観や責任論、隔時性(ディアクロニー)とは何か、といったあたりがわかりやすく述べられていて、やはりこっちを先に読むべきだったかと思っています。後の祭りですが。


■加賀野井秀一『メルロ=ポンティ――触発する思想』
 熊野先生のレヴィナス本を読みながらさっぱり分からんと首を振りつつ、同じフランスの現象学研究者で身体論を扱っているメルロ=ポンティなら少しわかりやすいんじゃないかと思って手にとってみたのですが、こっちはこっちで結構な難物でした(念の為言っておきますが、著者が悪いわけではありません)。とは言え、フッサールの遺構のくだりなど伝記部分は興味深く、著作ごとに章立てを分けてあるので事典的に使ったり再読する時に必要な部分に検討をつけたりするには便利そうです。
 フランス思想でもドイツのフッサールの影響を受けているメルロ=ポンティやレヴィナスはわかりやすいかと思ったのですが、なかなかそういうわけでもないようで。どうにも詩を書くように哲学するフランス現代思想の傾向は彼らにもあるようで、わかりにくいという点が同じでもまだフランクフルト学派の凝り固まった分かりにくさの方がフランス現代思想の得体の知れない分かりにくさより読んでいて安心するところがあるなあなどと思ったりするのでした。


■ナイジェル・ウォーバートン『「表現の自由」入門』
 昨今ちょくちょく表現の自由が問題になる時事案件があるので手を出してみました。著者のウォーバートン氏はケンブリッジ大出身の哲学者だそうですが、さすがに原著がVery Short Introductionsに収録されているだけあってなかなか読みやすい本です(余談ながら岩波はこの叢書の和訳は「1冊でわかる」シリーズで出していたと思うんですが、方針変えたんですかね?)。
 前半の総論にあたる部分ではJ・S・ミルの古典自由論と表現の自由の関係から話を進め、一般的に表現の自由を擁護する場合の論理建て、その制限の線引きにおける各種の立場などを手際よく整理して提示しており、後半の各論部では感情に対する侵害、ポルノグラフィ、インターネットなどが扱われています。
 ただ著者自身の見解もちょくちょく挟まれるものの、まとまった結論として示されることはないですし、全体的に考える材料の提示という面が大きいかなと。それはさておいても、入門書としては良い本かと思います。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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