南川高志[編]『378年 失われた古代帝国の秩序』


 山川のシリーズ「歴史の転換期」の第二回配本。
 
 前巻はB.C.220年だったが、今回は378年である。この年に何があったかというと西ではアドリアノープルにおいてローマ軍がゴート族と戦い皇帝は戦死、東では華北を統一した前秦の符堅が天下統一に王手をかけるべく淝水に軍を進めたが東晋軍に破れ、華北は元の五胡が割拠する状態へと戻っていく。
 いずれにしても、民族の移動の中で古代帝国の秩序が失われ、新たな時代へと動き出す前兆のひとつであった。この民族移動と東西の古代帝国の秩序の崩壊という着眼点は宮崎市定氏がかなり前に触れていた記憶があるが、それぞれの地域の専門家が同様の観点から一般向けの一冊の本を出す、ということは貴重な機会であろう。

 内容は全五章といくつかのコラムに分けられる。うち第1~3章が西側、第4・5章が東側である。ローマ帝国が大半であった前巻とは異なり、西側の章でもそれぞれ西ローマ帝国の崩壊、西ヨーロッパ世界の再編(メロヴィング朝フランク王国が大きく取り扱われている)、ビザンツ世界の形成という風にきっちりテーマが分散している。古代末期(という語は全面には出ていないが)の西洋のあり方について、日本人研究者の概説が読めるというのはありがたいところだ。
 東側の章では五胡十六国から南北朝にかけての華北で一章、華南で一章という形になっており、こちらは頁数の短さが良い方に働いており、五胡十六国から南北朝にかけての概説としては非常に分かりやすく、流れを掴みやすい。
 いずれにしても、統一政権の歴史を重んじていると過渡期として等閑視されやすい時代であり、本書がこの時期に照準を合わせたのは正解だったように思う。

 前巻からの繋がりを意識して読んだ方がいいところもあり、前巻で全四章中三章がローマで一章のみ漢を扱っていてバランスが悪い気がしていたが、あの一章が前提となってこの巻があることを思うと、南川氏編著の一・二巻の構成としてはこれはこれでいいのではないか。
 次巻はアッバース朝革命がすぐに思い浮かぶ750年ということになるが、今回の378年との繋がりはどうなっていくのだろうか。期待して待ちたい。
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