近況・新刊情報と最近読んだ本など

 いささか久しぶりになってしまいましたが、先月の末に異動が出て日本海側から瀬戸内の方へ帰ってきました。何せ荷物に本が多いので荷解きと整理に手間取りましたがなんとか終わったところです。勤務地は現住所から遠くなるので時間が取りにくくなりますが、読書と執筆のための時間はなんとか確保したいところ。

 さて、新刊情報。
 中公新書今月の新刊に比佐篤『貨幣が語るローマ帝国史 権力と図像の千年』。
 ちくま新書10月、楊海英『モンゴル人の中国革命』。楊先生のいつもの分野ということになりますが、今回は筑摩から。ちくま新書は歴史書に関しては割と読みやすいものが出るような印象がありますが、さて今回はどうか。また楊先生の本では『墓標無き草原』が同じく10月に岩波現代文庫に収録されるようです。
 星海社新書10月には日本史史料研究会[監修]、平野明夫[編]『室町幕府全将軍・管領列伝』。ここ最近の星海社新書はいい歴史書が出ているのでこれも期待できるでしょう。
 11月以降、隔月刊行で『中世思想原典集成精選』が平凡社ライブラリーに。さてイスラーム哲学からは何編収録されることになるか。
 講談社からは興亡の世界シリーズの学術文庫への収録が10月、陣内秀信『イタリア海洋都市の精神』、11月網野徹哉『インカとスペイン 帝国の交錯』。またメチエからは11月に薩摩真介『<海賊>の大英帝国』というタイトルが。

 以下、最近読んだ本。
 

■清水克行『戦国大名と分国法』
 清水先生の本はどれも面白いんですが、本書も分国法という専門家はともかく一般人はあまり興味を示さないような分野を扱いつつも、分国法の内容から戦国大名のパーソナリティに迫っていたりするのでなかなかあなどれない一冊です。
 法文解釈や文面の変化という点からだけでなく、実社会との関わりや制定過程の考察、分国法の必要性についての議論など、やはり社会史の専門家だなあという部分が面白いですね。
 中身が充実している上に可読性がよい一方で、日本中世史の学術的な論述スタイルを崩していないので専門家の書いた本を読んでいるぞ感が強く、読後の満足感も高いのが特徴ですね。日本中世史でムックからちょっとむずかしい本に手を出してみようかなと思った頃の人に特におすすめかもしれません。


■小牧治『アドルノ』
■小牧治『ホルクハイマー』
 色々事情があってアドルノの『否定弁証法』を読みたいなあと思っているので下準備に色々読んでいるわけですが、その一環で「人と思想」シリーズの小牧先生のフランクフルト学派関連のものを二冊。 『アドルノ』の方は『ホルクハイマー』と被っている部分は適当に端折ってあるので結局二冊とも読むことに。
 『啓蒙の弁証法』の解説についてはすでに仲正先生の解説を読んだ上で原著の和訳に当たった後だということもあってほうほうなるほどそういうことがという感じだったわけですが、『否定弁証法』の部分はちょっと難物でした。いやまあ当該書籍そのものが難物ですし、あの大著をこのページ数でまとめるというのも至難の業だと思われますし、ある程度の予備知識にはなったのでそこはそれでよしとしましょう。
 二人の経歴についても色々と知る所はあったわけですが、特にホルクハイマーの方は波乱に満ちた生涯を送っているなあと思うのでした。


■マンフレート・フランク『ハーバーマスとリオタール』
 ハーバーマスとリオタール、実際には直接論争として成り立つようなやり取りをしていない二人なんですが、その二人について仮想的に論争を成り立たせてみよう、という一冊。どちらかというと個人的にはハーバーマスの方に興味がありますし、本書の結論もややハーバーマス有利で終わるんですが、それはそれとしてリオタール側の理もそれなりに分かるようになっており、確かに大きな物語の終焉と小さな物語の並立を述べるリオタールの理論は討議による合意を目ざすハーバーマスとは相性が悪かろうなあというところ。
 ラファエロの「アテネの学堂」ではないですが、ああいうちょっと夢のあるお祭り的対話を志向したのかと最初は思っていたのですが、著者フランク本人の言によれば、彼が司会役を務めた独仏哲学の対話シンポジウムがぐだぐだに終わってしまったというのが本書の執筆理由のひとつのようで、いささか気苦労が偲ばれるところとなっています。


■仲正昌樹『ヴァルター・ベンヤミン――「危機」の時代の思想家を読む』
 ちょうど丸二年ほど前に確保していたもので、当時は著者名も気に留めていなかったのですが、ここ最近仲正先生の本を何冊か読んでそういやこれも同じ著者だったかと思って読書。作品社から出ている講義シリーズなので、引用を適宜挟みつつ解説してくれているので、原著の和訳を読みたくなってくるのがいいところですね。
 扱われているのは『複製技術時代における芸術作品』、『歴史の概念について』、『翻訳者の課題』、『暴力批判論』の四点。『パサージュ論』も解説してほしかったんですが、この方式であのやたら長い本を解説するのはないものねだりになるのでひかえておきましょう。『歴史の概念について』は積んでいるので近く読みたいですね。


■ユルゲン・ハーバーマス他『公共圏に挑戦する宗教』
 もともとアメリカで行われたシンポジウムだったようですが、それを論考形式に近くなるようにして出版したもののようです。
 前半ではハーバーマスとチャールズ・テイラーの対称性がよく分かって面白かったわけですが、「討議による合意」と「異なる信条(宗教には限らない)どうしの間での分かりあえなさ」の問題はアクチュアルで注目すべきところのように思います。
 また、この二人に続いて登壇したジュディス・バトラーのそもそも聖俗分離ないし政教分離ってキリスト教的な前提のもとで行われて、ないし考えられていないか、という指摘は西洋側の宗教観に合致しないところがあるイスラームを色々勉強してきた身としては納得度の高い議論でした。


■ジョン・M・ヒートン『ウィトゲンシュタインと精神分析』
 初見では割と謎なタイトルだったんですが、ウィトゲンシュタイン自身のフロイト批判を扱っているのでこんな本になったようです。
 著者は精神療法士とのことでどちらかといえば精神医学に専門は近いのでしょうが、内容はウィトゲンシュタインが主になっています。ある程度まではフロイトとウィトゲンシュタインに共通点がある、ということ自体が割と気付いていなかったことだったのですが、その上でどこからフロイトとウィトゲンシュタインの分岐が始まるのかというあたり、わかりやすく解説されていたので面白かったです。
 本書でウィトゲンシュタインに入門するのは無理でしょうが、副読本にするにはちょうどいい本かと思われます。


■斎藤慶典『デリダ――なぜ「脱-構築」は正義なのか』
 斉藤先生の一般書はなるべく読むようにしていますし、スピヴァクとの絡みでデリダを勉強する必要もでてきたので読書。
 半分予想していたことではあるわけですが、デリダの入門書と思って読むとあまりよろしくなく、やはり齋藤哲学の本というべきかデリダを現象学的に読むという一冊になっています。現象学と言語哲学的な問題意識というと、斉藤先生の『「東洋」哲学の根本問題――あるいは井筒俊彦』が思い出されるわけですが、本書も井筒本と同じくやはり世界を分節する言語という観点からの記述になっており、デリダもその線で解説されています。
 面白かったのは面白かったですし勉強にはなりましたが、それはそれとしてデリダ関連の入門書を他にも読む必要はやっぱりありそうだなあというところでしょうか。


■クリスティアン・ボルフ『ニクラス・ルーマン入門――社会システム理論とは何か』
 ハーバーマスが敬意を払い、また相手側からも敬意を払われていた主要な論敵の一人ということでニクラス・ルーマンに興味が出ていたのですが、良さそうな入門書を書店で見かけたので買ってみました。
 オートポイエーシス的な社会システムという議論についてはなるほど見通しがよく、すっきりしていてこれはこれで説得力はあるなあとは思います。ハーバーマスやデリダとの対照化、フーコーとルーマンの権力論の比較考察あたりが割と面白かったところでしょうか。考察というよりは個人的な感想なのですが、確かにハーバーマスは社会学者でもあるとは言え、社会哲学に半身を突っ込んでいるわけで、あくまで社会学の方に軸足のあるルーマンとスタンスが異なってくるのはそれは成り行きとしてそういうものじゃないのかなあと。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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