臼杵陽『「中東」の世界史』


 中東地域研究の研究者、臼杵陽氏による「中東」の近現代史。副題は「西洋の衝撃から紛争・テロの時代まで」。
 
 中東の近現代史を語る、と一口に言ってしまえば単純だが、そもそも「中東」なる概念の発生やその概念の変転も視野に入れて話をしようとするとなまなかにはいかない。本書は、中東の実際の歴史を追っていくのと同時に、著名な「中東」史研究者の著作や日本の世界史教科書などを対象に認識論上の変遷の分析も展開し、その「中東」概念の伸縮性を視野に入れた論述が特徴となっている。
 また、著者の専門は中東地域研究だが、あくまで現在までの過程を述べることを示している。言い換えれば、問題の解決策を考える前にまず問題そのものの正しい認識に至ろうとしている。これは著者の『世界史の中のパレスチナ問題』と同じスタイルである。
 さらに言えば、中東の近現代史を語る時、単に大国間のパワーゲームの「場」としてのみ見られてしまうことがあるが、本書は各地域に内在的な要因も勘案し、外部勢力を主体的に利用した現地勢力の視点もなおざりにはしていない(ただ、唯一モロッコに関しては言及が多い割に国内政治への視点が欠けている点は気になる)。
 加えて、日本史と中東史との交錯にも視点を配る。柳田国男、橋本欣五郎、谷干城などなど……時に思わぬところで思わぬ日本の人名を目にすることにもなる。

 全体的な流れとしてはスタンダードな研究を汲んでいるのだが、上に挙げたような工夫と、広い範囲に目配りした通史としてはまだ比較的手頃な頁数(300頁弱)とが相まって、興味深い一冊となっていると言えるだろう。
 先に書いたように高校世界史の記述も折に触れて引用されており、高校世界史をメタな視点から眺めることもできるので、世界史担当の高校教員などにも有用かもしれない。
 もちろん、一般読者にとっても推薦できる一冊であることは言うまでもない。
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鉄勒京二

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