小松久男『近代中央アジアの群像』


 世界史リブレット人の一冊。副題は「革命の世代の軌跡」。
 
 ロシア革命前後は中央アジアにとっても波乱の時代である。帝政の打倒と自由への希望、ソヴィエトへの期待感と不審感、そしてスターリニズムの嵐。本書は、中央アジアに生まれ育った4人の知識人の動向からこの時代のこの地の歴史を読み解く。
 一口に中央アジアと言うが、取り扱われているのはサマルカンドのマフムードホジャ・ベフブーデイー、ブハラのアブドゥラウフ・フィトラト、バシコルトスタンのゼキ・ヴァリドフ、カザフスタンのトゥラル・ルスクロフ。民族的にも地理的にもやや広がりがある。
 また、折に触れてイスマイル・ガスプリンスキーやスルタンガリエフの動向にも筆が及ぶ(スルタンガリエフについては山内『スルタンガリエフの夢』を参照のこと)。

 4人の中で最も有名な人物はおそらくゼキ・ヴェリディ・トガンことゼキ・ヴァリドフだろう。政治運動だけでなく、いわゆるバスマチ蜂起にも前線で参加し、後には学者として大成する。4人の中で天寿を全うしたのも彼のみである。なお、本書ではやや等閑視されている亡命後の彼の経歴は小野『亡命者の二〇世紀』に詳しい。
 アブドゥラウフ・フィトラトは本書の著者がかつて『革命の中央アジア』でメインに取り扱ったこともある人物で、青年ブハラ人の主要メンバーの一人であった。
 上の2人に比べるとベフブーディーとルスクロフの日本での知名度はあまり高いとは言えない。とは言え、4人に共通しているのは何らかの形で旧来のムスリムの教育制度のみを良しとする態度から離れようとしたことであり、特にガスプリンスキーが提唱した新式学校の影響は大きかった。新式学校はジャディード運動を通じて本書の副題ともなっている「革命の世代」を育てていくこととなる。彼らはムスリム社会がより大きな近代社会の中で存続していくために、近代的教育と自治を求める道運動を続けていくことになる。

 彼らの努力はスターリン時代への移行によって少なくとも彼らの存命中は報われることはなかった。ヴァリドフは亡命、ベフブーディーはブハラのアミール配下の者に殺され、フィトラトとルスクロフはスターリンによる粛清の憂き目にあい、またソ連の文脈の中では正当に評価されることもなかった。
 とは言え、現在の中央アジア各国のアイデンティティの源泉の一部はこの時代にあり、その形成に彼らが果たした役割、そしてその形成過程がどのようなものだったか記録した役割は決して小さなものとは言えない。
 100頁ほどのリブレットで4人の人物について扱っているのでやや話が錯綜する部分もあり、しっかり理解するには熟読する必要があるが、その分得るものは大きいだろう。また革命の時代の中央アジアについて、見通しを立て、上で挙げた他書に進むきっかけとしてもよいのではないだろうか。
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鉄勒京二

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