楊海英『モンゴル人の中国革命』


 内モンゴル、特にウーシン旗が大戦期と国共内戦、人民共和国成立期にいかに民族自決を目指し、そして失敗したかを述べる。著者は『墓標なき草原』や『日本陸軍とモンゴル』の楊海英氏。
 
 周知の事実だが、現在、モンゴル南部は内蒙古自治区として中華人民共和国の領内にあり、北モンゴルのモンゴル国とは分断されている。では、その事態は如何様に出現したのか。近代モンゴルの歴史を見る時、どうしても内外モンゴルを支配していたのが清朝であるためにその叙述は中国史に回収されてしまう(特に、別の国家とならなかった内モンゴルにその傾向は顕著である)。近代中国史は語るべきトピックがあまりに多く、概説等で触れにくいこともまた一因だろう。

 本書は、その等閑視されがちな内モンゴルの近代史を、内モンゴル内在的な視点から叙述するものである。
 ソ連、国民党、共産党、日本、様々な勢力の角逐する場となったモンゴルだが、在地勢力は外部の勢力を利用しながら立ち回っている。しかし、日本軍の撤退やヤルタ協定によるモンゴルの頭越しでの大国間の勢力圏分割の取り決め(そしてそれに伴ってモンゴル人民共和国のチョイバルサンが取らざるを得なくなった内モンゴル情勢に不干渉の姿勢)、国共内戦に連動してモンゴル内部でも分裂傾向があったことなどから、徐々に状況は悪化し、最終的に民族自決の運動は挫折する。
 著者がオルドス高原の生まれということもあり、史資料に基づく議論と同時に、著者自身の体験や収集した証言なども織り込んで叙述が進み、マクロな視点からだけでは見えてこないモンゴル人たちの思いが伝わってくる。

 ただ、それと表裏関係にあるのだが、本書を読むにあたって注意すべきが著者の立ち位置だ。自身の父が人民共和国側、つまり加害者側に立ち、ある種内モンゴルの民族自決にとどめを刺したトリ平野の戦いに参加していたという著者の忸怩たる思いが滲み出ているところがある。無理からぬところではあるが、注意して読むべき部分だ。
 そこさえ差し引けば、本書は複雑な近代モンゴルの歴史に一定の見通しを与えてくれるものであり、近代世界史の穴のひとつを埋めてくれることになるだろう。
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鉄勒京二

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