近況・新刊情報と最近読んだ本など

 先日福井に旅行に行ってきました。20年ぶりくらい(つまり前に行ったのは開館時)に恐竜博物館に行ってきたわけですが、やはりのどかな風景の中に突然メタリックのドームが出現するとインパクトがありますねえ。獣脚類展の会期だったわけですが、流行りというべきか鳥との関わりに着目した展示になっていました。協力してくれている博物館の大半が中国だったあたりは時勢だなあと。
 平日だったにも関わらず、駐車場に水戸や神戸、島根ナンバーの車が止まっていてなかなか遠方からの来館者も未だ多いようで、繁盛しているなら何よりです。

 さて、新刊情報。
 中公新書10月、佐々木雄一『陸奥宗光――「日本外交の祖」の生涯』。中公新書の人名タイトルものは良書が多いのでこれも期待できそうです。
 刀水書房10月、宮脇淳子『モンゴルの歴史[増補版]』。増補内容がどういうものなのかちょっと期待と不安が半々といったところですが、元の本を持っていないのでこの機会に入手したいと思います。
 吉川弘文館10月、人物叢書から見瀬和雄『前田利長』。
 講談社現代新書11月、宮本正興、松田素二[編]『改訂新版 新書アフリカ史』。アフリカ史のロングセラーですが、こちらも改訂新版が出るようで。これは要チェック。
 星海社新書11月、日本史史料研究会[編]『戦国僧侶列伝』。最近、星海社新書は日本史成分が強めですねえ。

 以下、最近読んだ本。
 

■八木沢敬『分析哲学入門』
 積読消化の一環で読書。哲学者の名前や哲学史的な話題もほぼ出てこないので本書だけ読んでいればある程度のことがわかるという意味ではいい入門書だと言えるでしょう(その分、ちょっと退屈かもしれませんが)。
 論理の腑分けをしていく分析哲学が、それはそれで突き詰めていくと可能世界論などの問題にぶちあたる、というのはなるほどそういう展開になるのか、という気付きを得られたので面白かったところです。ただ、個人的には大陸哲学の方がしっくりくるなあという感想は覚えましたね。


■神島裕子『正義とは何か――現代政治哲学の6つの視点』
 正義論に的を絞って論点縦割りで論じている新書って実は今まで手頃なものがなかったので、本書はスタンダードになりそうな気がします。扱っているのはリベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムと、フェミニズム、コスモポリタニズム、ナショナリズムの6つの立場です。前3つがそれぞれ相互に排他的な関係にあるのに対し、後3つはそういうわけではないので、まずは前半を基礎として押さえておくのが重要かなと思います。
 特にコミュニタリアニズムに関しては日本のサンデル人気のおかげで正義論がコミュニタリアニズム的理解で広がっている傾向が一部であるように思いますが、他の立場を知っておくには手頃な本でしょう。
 また、リベラリズムとの対立軸でリバタリアニズムを語る時はかなりラディカルなリバタリアニズムの説明がされることが多いですが、本書では原理的にはリバタリアニズムを維持しつつも、実際に出力される規範に関してはリベラリズムに近いようなリバタリアニズムの立場も紹介されており、この辺も面白いところです。
 後半部に関してはやや各論気味の傾向がありますが、それぞれ簡単に見取り図を得るには便利でしょう。
 主にアメリカ哲学が扱われているので例えばハーバーマスの討議倫理には触れられていませんし、またなぜロールズが反照的均衡なんてものを持ち出したのかという原因になる言語論的転回の話もされていない(なのでローティにも言及がない)ので、ちょっと食い足りないところはありますが、ざっくり現代正義論を押さえておくにはいい本でしょう。


■ジョージ・マイアソン『エコロジーとポストモダンの終焉』
 おなじみポストモダン・ブックスの一冊。今回はリオタールを参照して「大きな物語」の概念を用いつつ、実は環境問題はグローバルな価値観を規定するようになっており、新たな「大きな物語」となるんだよ、という議論をしています。
 とは言え巻末の解説で三島先生が書いている通り、環境問題についてはモダンかポストモダンかというのはもはや定義の問題なのであって、ちょっと筋の悪い議論かなあと(このあたり、モダンの価値観を救出しようとするハーバーマスと、ポストモダンの代表的哲学者として見なされているデリダが和解した事情と通じるものがあるように思います)。


■エドワード・サイード『人文学と批評の使命――デモクラシーのために』
 サイード最晩年の評論で、コロンビア大学での連続講演をもとにしたもの。
 もうすこし一般的な話を期待して読んだんですが、(サイード本人が本文冒頭で述べている通り)割とアメリカ的文脈に依拠している話が多く、そこは少し肩透かし気味です。ただ、サイード自身が常にアウトサイダーとして生きてきたにも関わらず、一方で長い時間を過ごしてきたアメリカという環境に何らかの軸を持っていたということも分かってそれはそれでサイードの人となりを思う時に興味深いところです。
 この本に限らず、サイードはポストモダンの相対主義に批判的なところがあって、現実問題苦しんでいる人がいる時に価値相対主義的な見方で煙に巻くのはあまりに不誠実だろうというのは耳に痛い話でしょう(ただ、それを哲学的に定式化しようとすると結論の先取りになって堂々巡りに陥るところはあるんですが……)。


■黄俊傑『東アジアの徐復観――儒教と革命の間』
■朝倉友海『「東アジアに哲学はない」のか――京都学派と新儒家』
 現代新儒家絡みが面白そうだなあと最近思い始めたので二冊。
 近代中国思想史を見ても、儒教がアクチュアルな思想として取り上げられるのは康有為-梁啓超ラインの時期までで、戊戌政変によって彼らが失脚すると叙述の中心は孫文ら革命派に移ってしまいますし、梁啓超もどちらかと言えばジャーナリスティックな活動がメインになってきます。じゃあその時期以降儒教が漢語圏の思想史でとるに足らない存在になったかというとそういうわけではなく、特に共産党から逃れて香港や台湾で活動している思想家には儒教の伝統を引く人が割といるようです。
 新儒家に話を絞ると、黄氏が取り上げているのが徐復観、朝倉先生が取り上げているのが牟宗三です。いずれも『為中国文化敬告世界人士宣言』が四人の連名で発表された時に名を連ねている代表的な新儒家です(他の二人は張君勱と唐君毅)。
 黄氏の整理では徐復観が政治哲学的な傾向が強いのに対し、牟宗三、唐君毅は形而上学的傾向が強いとされています。徐復観は中国思想内在的に民主主義への道筋をつけようとしており、儒教というだけで単に復古的・保守的とは言えないおとが示されています。
 一方、朝倉先生の本では新儒家として牟宗三が中心的に取り上げられているわけですが、こちらはカント哲学と中国思想(儒教だけでなく中国仏教も含む)の接続を図った思想家として示されており、確かに黄氏の整理通り、形而上学傾向が強いことがわかります。
 なお、朝倉先生の本では東アジア哲学として新儒家の他に日本の京都学派も取り上げられており、西田哲学なんかについては色々と得るところもあったのですが、タイトルの関心からすると回儒と井筒俊彦が取り上げられていないのには少し渋い顔になりました。


■仲正昌樹『〈ジャック・デリダ〉入門講義』
■東浩紀『存在論的、郵便的――ジャック・デリダについて』
■高橋哲哉『デリダ』
 少し前に読んだ斉藤先生のデリダ本に引き続き、デリダ関連を三冊。
 デリダ自身、哲学的方法論を述べている哲学者ではなく、反面その方法を通じて出力されたものは沢山出版している類の哲学者なので、まあわかりにくいのは仕方ないのですが(そしてデリダがそういう方法を取るのにも理由はあるのでしょうが)まあなかなか理解するのに難渋します。
 仲政先生の本はデリダが出力したものを読み解くための一冊。このシリーズだとこれまで読んできたドイツ現代思想本やベンヤミン本は読みやすかったですし、今回形式が変わったというわけでもないので、要するにフランクフルト学派に比べてデリダが難解なのだろうなあということに。デリダがレヴィナスについて述べているところは(これまでレヴィナスについて何冊かうんうん唸りながら読んできたこともあって)少しわかりやすかったですが、他の部分について、特にデリダのハイデガー論の読解についてはまず先にハイデガーについてもっと深いところまで押さえておく必要がありそうだ、という結論に至りました。
 東氏の本は正直あんまり頼りたくなかったのですが、東氏の本ならまあわかりやすかろうと思って手にとったところ、これがまたデビュー作ということで最近の本のようにわかりやすさに重点を置いていないのか難解でした(逆に言うと割と学問的な手続きについてはちゃんと踏まえているように見えます)。いちおう一通り目は通しましたがこれはまたいずれ再挑戦したいところ。
 高橋先生の本は、現代思想の冒険者たちシリーズの一冊を文庫化したもの。
 もう最初にこれ読んでればこんなに苦労しなかったんじゃないかというくらい適切な解説がとてもありがたい本で、デリダ流の暴力論、言語観など、とてもわかりやすく整理されています。相変わらずデリダが他の哲学者の著作について脱構築している部分はさっぱり分からないのですが、デリダに入門したい人はまずこれを読むといいのではないでしょうか。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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