近況・新刊情報と最近読んだ本など

 しばらく放っておくと既読の本がたまって一冊あたりの紹介内容が薄い記事になりがちなのでこまめに書かないといけませんねえ。
 それはさておき先日大阪でうろうろしていた時の話。普段なら梅田のジュンク堂か紀伊國屋書店で本を探すところ、駅ビルの蔦屋書店というところに初めて入ってみたのですが、売り場面積はさておきジャンル毎に単行本も新書も文庫もレーベル関係なく置いてあってジュンク堂や紀伊國屋とはまた違った発見があって面白かったです。大阪に行った折にはまた寄ってみたいところ。

 さて、近刊情報。
 山川の歴史の転換期シリーズ、次の刊行は島田竜登[編]『1683年 近世世界の変容』の模様。750年を楽しみにしてるんですがなかなか出ませんねえ。発売は12月下旬。
 同じく山川、今月末に日本史リブレット人の新刊、林淳『渋川春海――失われた暦を求めて』。小説『天地明察』が面白かったので手軽に主人公の渋川春海の実像に触れることができるのはありがたいところ。
 中公新書12月は注目の本が二冊。まず坂井孝一『承久の乱――真の「武者の世」を告げる大乱』。『応仁の乱』、『観応の擾乱』ときて次は承久の乱。先の二冊も面白かったので、これも期待が大きい一冊になりそうです。
 次に小笠原弘幸『オスマン帝国――繁栄と衰亡の600年史』。新書でのオスマン帝国通史だと鈴木先生の『オスマン帝国』以来ですから実に26年ぶりですか。内容紹介をみている限りだといわゆる最盛期以降もきっちり書いてあるようなので新たなスタンダードになることを期待したいと思います。
 勉誠出版12月はアジア遊学シリーズで永山ゆかり・吉田睦[編]『アジアとしてのシベリア』。あまり見ないテーマですが、非常に面白そうです。これで一冊出せるのはさすが勉誠出版。変な本出さずにこの路線で頑張ってほしいものです。
 白水社12月、これはまさかですが、エリザベス・ドネリー・カーニー『アルシノエ二世』。クレオパトラの先駆者、という煽り文句がついていますが、ヘレニズム諸王国の人物で評伝が出るというのはそれこそクレオパトラ意外では非常に珍しいと思います。訳者は安心の森谷公俊先生。
 11月末、戎光祥出版から大庭裕介『江藤新平―尊王攘夷でめざした近代国家の樹立』。江藤新平と言えば毛利先生の本がイメージを形作って長いことたつような感じですが、ちょっと目新しめの論点のようなので楽しみです。
 

■馬場公彦『世界史のなかの文化大革命』
 1968年というのは俗に言う左翼にとっては象徴的な意味を持つ一年だったわけですが、こと、アジアにおいては、中国では文化大革命という大事件、日本では新旧左翼の対立とその激化(また新左翼による反体制の実力行使)、そしてその後の急激な鎮静というやはりエポックメイキングな時期でした。
 本書ではインドネシアの9・30事件(虐殺を伴った反共クーデター)を伏線として1968年をみていく、というような方針です。ややタイトルからのズレがあるような気はしますが、中国にとってのインドネシア共産党の重要性や、両国の共産党と日本共産党との関係の変遷(文革期には日共は中共を大々的に批判することになります)など、インターナショナルな相互に影響を与えつつ展開していった時代の流れが分かるようになっています。
 政治史、外交史ももちろんですが、民間の華僑がいかにこの時代を生きたのかなど、社会の下からの視点も併せて記されており、このあたりは世界史というより著者のジャーナリズム的な手腕の発揮されたところでしょう。


■長谷川宏『新しいヘーゲル』
■仲正昌樹『ヘーゲルを越えるヘーゲル』
 相変わらずヘーゲルは何を言っているのか今ひとつわかりにくいのでヘーゲル関係を二冊。
 長谷川先生は岩波文庫の『歴史哲学講義』をはじめ、ヘーゲルの原典の和訳を手がけられている方で、『新しいヘーゲル』でもヘーゲルが好きなんだろうなあということはよく伝わってきます。
 一方、仲正先生のヘーゲル本は、現代思想におけるヘーゲル需要・利用について述べられている本で、なぜかこちらの方がわかりやすいですね。


■五十嵐紗千子『この明るい場所――ポストモダンにおける公共性の問題』
 Amazonではボロクソの☆1レビューがついてますが、個人的には面白かった本です。ハーバーマスをポストモダンに位置づけるのはどうなのという指摘は、まあ言語論的転回以後、それに向き合って思想を形作った思想家である、という意味においては(やや無理やり感はありますが)一つの見方としてアリかなあと。
 やや古い文章を最近になって本の形にまとめたもののようですが、アレント、リオタール、ハーバーマスの順で公共性に関する議論を(特に他者論との絡みで)整理してあって大変読みやすいです。リオタールの議論はちゃんと理解するにはもう少しリオタール本人について知る必要がありそうですが、アレントとハーバーマスの整理(特にハーバーマスのコミュニケーション理論について)がすっきりしていて得るものは多かったと思います。
 開かれた公共圏の問題は現時点でのアクチュアリティがあると言えるでしょうし、個人的には『ラディカル・オーラル・ヒストリー』で提起されていた歴史実践間の対話の問題とも絡めて考えたいので大いに参考になりました。


■エドワード・W・サイード『知識人とは何か』
 長い間読まねばなあと思っていたものをようやく積読から崩しました。
 アレントの政治論、フーコーの権力論について触れた後だと「知識人とは亡命者にして周辺的存在であり、またアマチュアであり、さらには権力に対して真実を語ろうとする言葉の使い手である」という言葉の意味が一層深く思えるので、このタイミングでの読書は悪くなかったかなあと。
 アレントにすれば人がひとつでは政治は起きず、そこには他者が必要であるとするならば、その他者にサイードの言う亡命者という言葉が重なるように思います。


■岡田温司『アガンベン読解』
 アガンベンは『実在とは何か』を読んで案外最近の哲学者にしては読みやすいなあと思っていたのですが、フランスのポストモダンからメイヤスーらの思弁的実在論に行く前にいわゆるイタリアン・セオリーについてもう少し押さえておいた方がいいかなあということで読書。
 ざっくり読んでもアガンベン思想の全体が把握できたわけではないですが、キーワードごとの章立てになってますし、アガンベンの原著を読む時に折に触れて本書に戻ってくる分には便利そうかなあというところ。雰囲気で言ってしまえば、本書を読めばアガンベンにベンヤミンの影響が強いというのはなんとなく掴めますね。 


■西垣通『AI原論――神の支配と人間の自由』
 メチエの新刊案内でタイトルだけ見かけた時は理系の本かと思ってスルーしていたのですが(実際著者の西垣氏は工学系の出身だそうです)、思弁的実在論に言及があるらしい、ということを知って読んでみました。
 蓋を開ければ半分(あるいはそれ以上)が哲学の話で、まあドレイファスからサールからカントから哲学者の名前が出るわ出るわ。
 現代自然科学が相変わらず素朴実在論を前提としていることにたいする攻撃などは文系の立場ながらヒヤヒヤものですが、著者の理系に対する理解が深いこともあり非常に深いところで文理間対話を実現している本と言えるのではないでしょうか。


■徳永恂『現代思想の断層――「神なき時代」の模索』
 著者の徳永先生は『啓蒙の弁証法』を訳したフランクフルト学派について詳しい研究者です。
 本書はウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノ(そしてハイデガー)を著者なりに並べて切ったような一冊。これで現代思想について知ろうとするのは間違いのような気がしますが(ドイツ系ばっかだし)、それはそれとして哲学研究者が思いの丈を語っている本としては面白い一冊でした。
 サイードのフロイト論と絡んで、フロイトの章でサイードへの言及があるんですが、徳永先生のサイード評は言い回しがかっこいいですね。


■クリストファー・ホロックス『マクルーハンとヴァーチャル世界』
■ピーター・トリフォナス『エーコとサッカー』
 お馴染みポストモダン・ブックスシリーズから二冊。
 マクルーハンもエーコも名前は聞いたことがあるもののどんな人か知らない思想家だったので、フックになるかなと思って読んでみました。
 マクルーハンの方は昨今のVRの流行なんかを思うとずいぶん前に面白いことを言ってた人だったんだなあという一周遅れたような感想が。ポストモダンの議論との突き合わせはなかなか単純には行かないようですが、マクルーハン本人の本に興味が出てくるという意味ではいい読書でした。
 エーコの方はサッカーファンとしてのエーコや、エーコがサッカーについて論じた文章を拾ってきてエーコとサッカーについて論じる試み。帯に「パンとサーカスの社会学」とあるのがなかなか的確かなと。


■G・C・スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』
 読書会の課題図書に選んで読みましたがいやまあなんというか難物で、スピヴァクに比べればサイードの方がよほど読みやすいですね。これを読むためにドゥルーズ関連やデリダ関連の本を片手の指の数以上は読みましたがなんとなく言いたいことが分かったかなあ、という程度。
 主体の解体を唱えながら、その解体の理論を提唱/認識している主体についてはあえて無視ないし隠蔽しているフーコーやドゥルーズの態度に対し、知の内部解体を行うことができるデリダの脱構築の方がポスコロとの相性がいい、という論旨はなるほどというところ。スピヴァクがその隠蔽された主体を西洋であると見なしているあたりはちょっと引っかかりますが、ポスコロ的には自然な論の流れなのでしょう。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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