近況・新刊情報と最近読んだ本など

 さて、今回が本年最後の近況記事になりそうです。年末はなんやかんやと忙しいわけですが、一応年間読書目標の120冊は突破したのでまずまずかなあと。下半期は哲学書の冊数が多かったのでブログの更新回数は減ってしまいましたが。
 友人との読書会も不定期ではありますがE・W・サイード『オリエンタリズム』、保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』、G・C・スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』と三冊こなしているのでこの調子で続けたいところです。スピヴァクが難物すぎたので次はフーコーの予定。

 さて、新刊情報。
 明石書店1月、山口昭彦[編著]エリア・スタディーズシリーズから『クルド人を知るための55章』。言われてみれば出てもおかしくないのにまだ出てなかったなあという一冊。クルド人について時事からはやや距離をとって概説的な一冊が出るというのは非常にありがたいことです。
 平凡社ライブラリー1月、中世思想原典集成は『ラテン教父の系譜』。解説はアガンベン関係でよく名前を見かける岡田温司先生。同じく平凡社の「中世から近世へ」シリーズ1月、黒田基樹『今川氏親と伊勢宗瑞――戦国大名誕生の条件』。相変わらず黒田先生はガンガン本を出しますねえ。テーマとしてはこのシリーズの割にはやや古い時代になりそう。同シリーズ2月には長澤伸樹『楽市楽座とはなにか』。こちらも概説書で一冊扱うというのはけっこう面白い試みのように思います。期待。
 白水社1月、マニング・マラブル『マルコムX』。マルコムの大部の評伝(四六判上下併せて800頁超)の和訳が出るとは。
 ちくま学芸文庫2月、『資治通鑑』。抄訳のようですがそれでも文庫で624頁とのことでなかなかの大冊。マストアイテムになりそうです。

 以下、最近読んだ本。
 

■大庭裕介『江藤新平』
 江藤新平と言えば維新後近代的人権の確率に奔走し薩長の不正を厳しく追求した硬骨の正義感というイメージが毛利先生の『江藤新平』や、司馬遼太郎の『歳月』以来定着しているように思います。私もそんな感じの印象を持っていたわけですが、最近の研究成果を盛り込んだ本書によると江藤が目指していたのは尊王攘夷と神道による西洋とは別種の近代で、従来の江藤イメージとは違うものの非常に野心的な江藤像が浮かび上がってくるようになっています。
 近代の複数性という前提を共有していないと、単なる江藤の悪口のように見えてしまう部分がありますが、そこを注意すればこれはこれで魅力的な江藤像のように思います。
 

■仲正昌樹『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』
■――『〈法と自由〉講義――憲法の基本を理解するために』
■――『カール・シュミット入門講義』
■――『ポストモダン・ニヒリズム』
 お馴染み仲正先生の入門講義シリーズ。最新刊はドゥルーズ=ガタリです。順序が前後しましたが、スピヴァクのドゥルーズ批判を押さえるためにもちょうどいいかなと思って読書。
 ドゥルーズ=ガタリに限った話ではないんですが、フランスのポストモダン系の思想家って使ってる基礎概念がややこしい上に、その概念を用いて何を言おうとしているのかというのもまたややこしいので二重のややこしさをどう解きほぐすかがキモみたいなところがあります。仲正先生はわかりにくいものを分かりやすく説明するのが上手いので(ただし頁はしっかり厚くなる)今回前者について(「欲望機械」、「器官なき身体」など)は割と把握しやすかったところ。後者はどうにも私の頭が悪いのかうすらぼんやりした形でしか分かりませんでしたが、何冊か積んでいるドゥルーズ関連の入門書もあるので引き続き勉強していきたいと思います。
 『〈法と自由〉入門講義』は社会契約論の基礎を掴んでおこうということでいつだったか途中まで読んで積んでいたものを最後まで読みました。ルソーとカントはともかく、ベッカリーアはあまり詳しく取り上げられることの少ない人物だと思いますが、刑法と社会契約との関係がどう理屈づけられているのかなど分かって面白かったところです。
 『カール・シュミット入門講義』はアガンベンのホモ・サケルシリーズに進む前に前提となっている例外状態などの議論を抑えておこうということで読んでみました。シュミットの論敵が法実証主義のケルゼンだったりするので、こちらは予備知識があり割とすんなり頭に入ったかなと。ただシュミット、危険な思想家かどうかは置いておいても割とせっかちな奴だったのでは、みたいな感想は著作の端々から伺えるような気がします。
 『ポストモダン・ニヒリズム』は仲正先生が各所で発表した論考などをまとめたものですが、書き下ろしで収録されている「ハーバーマスとデリダ」がやはり面白いですね。マンフレート・フランクを読んだ時にも思ったのですが、やはりこうして同時代の思想家・哲学者どうしを突き合わせて対立関係を整理していく仕事は読んでいてとてもわくわくします(なおこの稿ではデリダ対サール論争にも触れられています)。仲正先生曰く「偉大な哲学者による誤読がひどい」とのことで、まあ読んでる限りだとその通りのような気がしてくるんですが、それはそれとしてだからこそこういう仕事にも意味があるのかなとは思いますね。


■ジョルジョ・アガンベン『開かれ――人間と動物』
 人間と動物の閾について多方面から一気呵成に論じるアガンベンの小品。ホモ・サケルシリーズなんかとは違って一冊だけで読める本ではあるのですが、なにせ分野横断が縦横無尽で13世紀のヘブライ語聖書にはじまりハイデガーまで突っ走るのでついていくのにけっこう苦労します。
 これはちゃんと理解したとは言い難いのでいずれ再読したいところ。


■中山元『フーコー入門』
 おなじちくま新書から出ている重田『ミシェル・フーコー』はだいぶ前に読んだので重田本より前に出版されたこれは積んでいたのですが、読書会でフーコーを扱うことになったこともあってこちらも読書。
 重田本が『監獄の誕生』に的を絞って解説しているのに対し、中山本はよりフーコーの思想一般について目配りしており、これはどちらか片方というより両方読んだ方がいいなあという印象です。特にエピステーメー論なんかはこちらの方が分かりやすい印象。
 ポストモダンは主体を解体したなどとよく言われますが、巻末の中山先生の理解が正しいのだとすると、なおフーコーには真理の複数性こそあれ実存的な主体は生き残っているのかなあ、みたいなことを思ったりもします。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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