堀川徹[編]『知の継承と展開――イスラームの東と西』


 「知のユーラシア」シリーズの一冊。本巻は、イスラームを軸として広域的な思想史・思想交渉史の中からテーマを各著者がピックアップした論集となっている。

 本書の論考はタイトルから内容が推察できるものが多いので興味のあるところから読んでかまわないだろう。冒頭の総説でそれぞれの論考の内容について簡単に紹介してあり、それも助けとなる。読者は学部生レベルを想定しているようなのでやや専門性が高いものもあるとは言え、一般読者でもついていけるようには書かれている。
 構成は以下の通り。

「ユーラシアの知の伝達におけるシリア語の役割」
「イスラーム思想におけるイラン的要素」
「イブン・スィーナーの思想世界――知的自伝を読む」
「中央アジアの知の世界――イスラーム化の進展とティムール朝文化」
「共生の思想としてのスーフィズム――聖者信仰と諸宗教の一致」
「インドのイスラーム思想――修行論に見られるインド思想との交流」
「イスラームと道教のアマルガム」
「『清真釈疑』におけるムスリムの儒者批判」

 中国イスラーム哲学に関する論考が二つ収録されていることからも分かるように、従来周辺的とされてきたテーマも積極的に取り上げられているのが特徴だ。インドのイスラーム思想、イスラーム思想におけるイラン的要素も含めて、単にイスラームとして一括されがちな進行の中に、ある種のシンクレティズムがまだら状に存在しているということが分かる。
 例外的に本流の中心部といえるようなものとして、イブン・スィーナーを取り扱ったものがある(言うまでもないことだが、イブン・スィーナーはイスラーム思想史において五指に入るビッグネームだろう)。ここでは彼本人の自伝の冒頭部の和訳が掲載され、それに沿って論考が展開されており、これもまた面白い一本となっている。
 論集形式になっているので気になったものから読むのもいいが、上で書いた通りテーマが満遍なく分散しているため、全編通して読んでイスラームの持つ豊かな多様性について学ぶのもいいだろう。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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