比佐篤『貨幣が語るローマ帝国史』


 副題は「権力と図像の千年」。貨幣の図像の分析をもとにローマの歴史を通覧する。
 
 古代ローマのコインというと皇帝の肖像が打刻されているイメージが強い。しかし、著者によると個人の肖像がコインに現れるのはローマ成立当初からではなく、ある時期からだという。独裁者が忌避されてきたローマにあって、存命の個人の肖像は避けられてきたというのだ。それまでは戦争に関わる図像であったり、あるいは造幣担当者の宣伝に当たるような(家門に関係する神々や祖先の功績など存命人物ではない)図像が選択されたりしている。
 しかし、時期が下ると飛び抜けて大きな権勢を持つ人物の肖像が貨幣に打刻されはじめる。そのはしりがポンペイウスであった。折しも共和制末期の混乱と帝制への秒読みが始まった時期だ。以降、カエサルより先、最高権力者の肖像はコインの定番デザインとなる。

 このように、本書ではローマ史の展開とコインの図像、あるいは打刻されている文言を結びつけ、時系列順に途切れなくユリアヌスの時期まで論じきる(飛び飛びになるがもっと後の話も出てくる)。
 コインの図像から皇帝たちが世襲の確定に努力していたことを明らかにしたり、また中央のみならず地方のコインの図像から地方の自治に話が及んだりもする。

 コインをネタに一冊書くとなるとエピソードの集合体になりそうなものだが、本書はきっちり通史として成り立っており、また単にコインの通史というわけではなく文字通りコインから読み解く通史ともなっている。コインという史料の残存状況が良いことはもちろん、そこから読み解けることの多さにも大いに驚く。
 管理人は古代ローマ史はたまに触れる程度でしっかり学んでいるわけではないが、本書はかなり面白く読めた。読み物としての完成度も高いので、やや各論気味のタイトルに尻込みせず、気軽に手にとってほしい一冊となっている。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は下記メールフォームか拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター
リンク
月別アーカイブ