近況・新刊情報と最近読んだ本など

 先の日曜日に梅田であった鈴木晶×岸見一郎『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』刊行記念トークイベントに行ってきました。特段愛について悩んでいるというわけではなく初期フランクフルト学派の一員としてのエーリッヒ・フロムに興味があったというのが主な理由なんですが、いろいろ裏話も聞けて(フロム『愛するということ』の旧訳の酷さがぶち上げられた時に相変わらず売れ続けていたので新訳を出す他なく鈴木先生にお鉢が回ってきたという話など)面白かったです。

 さて、新刊情報。
 山川出版社4月、世界史リブレット人の新刊は鈴木恒之『スカルノ――インドネシアの民族形成と国家建設』。そう言えばいっときに比べると評伝をあまり見なくなった人ではあります。なお著者の鈴木先生はパレンバン王国を専門にしている方のようです。
 中公新書4月、岩崎育夫『アジア近現代史――「世界史の誕生」以後の800年』。なんか最近岩崎先生この手の本出すことが多いですね。
 NHK出版新書4月、岡本隆司『腐敗と格差の中国史』。岡本先生も相変わらず多作のようで。タイトルが若干アレなのはいつものことなので中身は真面目であることを期待しましょう。
 ミネルヴァ書房4月、日本評伝選から岡田清一『北条義時――これ運命の縮まるべき端か』。
 講談社学術文庫5月、村山吉廣『楊貴妃――大唐帝国の栄華と滅亡』。20年以上前に中公新書から出ていたものですが、文庫化されるようです。

 以下、最近読んだ本。
 

■赤上裕幸『「もしもあの時」の社会学――歴史にifがあったなら』
 歴史改変SF、日本の架空戦記ブームなど文学系の試みから、ニーアル・ファーガソン『仮想歴史』といった学術系の試みまで「反実仮想」を取り扱った叙述を幅広く取り扱っている一冊。「歴史のif」を学術的に取り扱うにはどうしたらいいか、という観点からファーガソンやマックス・ウェーバーに注目しているのは面白いところで、確かに「歴史にifはない」という世諺が広く通用しているように、学術的に「歴史のif」を取り扱う試みを異端視する傾向がやや強かったのは間違いのないところでしょう。
 ただまあその「学術的「歴史のif」とはどういうものか」という観点(なお、歴史学に限った話ではなく、経済史学なども取り上げられています)と、「そもそも文学学術問わず「歴史のif」叙述はどう展開してきたかを学術的に検証する」という観点とが入り混じっていてやや散漫になっている印象は拭えないところ。また、このテーマを学術的に研究するのであれば科学哲学における説明概念の議論と突き合わせることも必要だったのではないのかという疑問もあり。
 面白い本ではありましたが、もうちょっと詰めてくれるとよかったんじゃないかなあと思います。


■マイケル・サンデル&ポール・ダンブロージョ[編]『サンデル教授、中国哲学に出会う』
■マイケル・サンデル『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』
■小林正弥『サンデルの政治哲学――〈正義〉とは何か』
 先日読んだ王前『中国が読んだ現代思想』で、サンデル訪中時の熱狂が描写されていたので興味を持ち、最近出たサンデルと中哲の専門家たちの論集を読んでみました。中哲側から面白い議論が出てきて勉強にはなりましたし、現代中国哲学がなお現代社会を論ずるに足るポテンシャルを持っているということは分かったものの、それはそれとして個人的に中哲(特に儒教)が肌に合わないという立場上、全体的にあんまり賛成し辛い論調だったのが全体的な感想です。
 ただ、面白かったのは基本的には伝統の中に生まれてくるという所与の前提を望ましいものとするコミュニタリアニズム/儒教にあって、杜維明が儒教の人間概念には儒教の役割倫理が認めるよりもっと確固たる中核自我があると主張していてこれを「批判精神」と呼んでいることで、これはリオタールが『インファンス読解』で言っているような「誕生の個別性の謎」と比較してみると面白いかもしれません。
 白熱教室講義録はTV番組にもなった人気講義を書き起こしたもの。先に中国本を読んだのでサンデルの議論についても抑えておくかということで読書。『これからの「正義」の話をしよう』に比べても割と読みやすいのでサンデル入門には適切な一冊だと思いますが、ただ哲学史を(一部前後しながら)たどって各論者の倫理観の適切な部分・不適切な部分を議論していくというスタイルを取っており、サンデル本人の思想まではたどり着きません(むしろウォルツァー流のコミュニタリアニズムについては批判的)。
 なので、『講義録』を読んだ上で小林『サンデルの政治哲学』を読むと『講義録』や『これからの~』で展開された議論の整理をした上で、サンデルが他書で展開しているサンデル本人の思想について分かるのでおすすめ。
 サンデルはロールズ批判を結局のところ諸善に対して独立・中立・超越的な正義というものの不可能性という点で批判しており、かつサンデルはウォルツァー流のコミュニタリアニズムも批判するのでコミュニティに支配的な善が直ちに(そのコミュニティにとってすら)最善であるとは言いません。するとどうなるかと言えば善が相対的であるのと同様正義も相対的であり、事例と原理の往復によって対話的・弁証法的に正義を追求していく他ない、とサンデルは考えているというのが著者の小林先生の見解です。
 最終的に熟議民主主義に接近しているという意味では後期ロールズ/ハーバーマス/サンデル三者の議論は一般に思われれているほど距離はないのかもなあと思いました。


■瀧澤弘和『現代経済学』
 上の赤上先生の本でどうも私は経済学の素養がない、ということが判明したので最近新書で出た経済学の入門書に手を出してみました。数式もほどほどに、経済学の各分野(ミクロ/マクロの区分だけではなく行動経済学・制度の経済学、ゲーム理論など)について解説しており初心者が概観する分にはとても読みやすい本でした。
 この本で経済史の研究の例として挙げられてたアヴナー・グライフの『比較歴史制度分析』という本がマグリブ商人とジェノヴァ商人の比較をゲーム理論を用いて行っていて面白そうなのでそのうち手を出してみたいところです。


■鈴木晶『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』
■エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
 早い時期に袂を分かつことになってしまったとは言え、初期フランクフルト学派の一員であったエーリッヒ・フロムについてはそのうち手を出さねばなあと思っていたので上で書いたイベントに行く前に読んどくかということで二冊読書。
 フロムの文章は(それこそアドルノなんかに比べれば)相当分かりやすいので結構拍子抜けしました。『自由からの逃走』はもちろん、一見個人的な問題を扱っていそうな『愛するということ』も心理学と社会の関係について扱っていて、ああこういうところは確かにフランクフルト学派的だなあと。
 消極的自由を得たことが重荷となり、積極的自由へ向かえない人は集団へと落ち込んでいくという議論は同じく全体主義に批判的だったオルテガの『大衆の反逆』などとも通じるところがありますが、フロムの方がよりロジカルに論じているように思います。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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