野村啓介『ナポレオン四代』


 ナポレオン1~4世の評伝。
 副題は「二人のフランス皇帝と悲運の後継者たち」。
 
 ナポレオンという名前の人物は高校世界史にも二人出てくる。言うまでもなくフランス皇帝ナポレオン1世、同3世である。1世に比べると3世のイメージはパッとしないが、それでもそれなりに知られている人物ではあろう。しかし2世は1世と3世がいるのだから存在はしていたのだろうがどんな人物なのか分からないという人の方が大多数だろうし、4世以降となるといるのかいないのかも知られていない。本書はそんなナポレオン一族について、時代背景の説明も含みながら時代順に追っていった一冊である。

 とは言え、ナポレオン1世については訳書を含めれば巷間に本は少なくないし(出版年次の近いものだと杉本『ナポレオン――最後の専制君主、最初の近代政治家』が面白い)、本書でのナポレオン1世の記述は新書1冊の何分の一かの頁数で述べていることなので、むろん必要な情報を筋道立てて説明されてはいるのだが、取り立て際立っているというわけではない。
 やはり特徴的なのはナポレオン2世および4世の記述だろう。近代フランス政治において、ナポレオン1世の追放後もボナパルト派は一定の影響力を持っていた。近代的価値観の擁護を目指しながらも、一方では帝制に拘るという近代が切り開かれようとする時代の矛盾を体現したような一派だが、本書ではそのボナパルト派の動向とも絡めつつ、2世、4世の時代について述べる。
 母方のオーストリアに引き取られた2世、亡命先のイギリスで軍務に就き、南アフリカで戦死した4世、いずれも個人として歴史に影響を与えたとは言い難いが、逆に歴史に翻弄された個人ではあったのだろう。

 また、先にあまりイメージがパッとしないと述べたナポレオン3世について、本書は再評価に積極的である点も面白いところだ。
 ナポレオン1世が個人的カリスマであったのに対し、3世には既に1世という見本がおり、また一度帝制が倒されたという事実も経験している世代である。本書を読む限り、ナポレオン1世の後継者を目指して帝位へ登り、廃位の後も復帰への野心を隠さなかった一方で、立憲君主として自ら任じ、(ヨーロッパ内部のみではあるが)各国のナショナリズムを擁護し、またそのナショナリズム擁護の理念と自国の国益の狭間で悩む姿は、反動主義者というよりは近代人のそれだろう。
 普仏戦争で捕虜となったことについても、彼我の軍事的優劣を自覚しながらも開戦に傾く世論から逃れられなかった3世に著者は同情的である。

 末尾には現在に至るまでのボナパルト家の動向にも少し言及がある。とは言え、現代政治におけるボナパルト家の存在感は大したものではない。近代が終わり現代が始まった頃には、歴史の表舞台から去るべくして去った一族であったのだろう。
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