鈴木恒之『スカルノ』


 世界史リブレット人の一冊。副題は「インドネシアの民族形成と国家建設」。
 
 スカルノと言えばインドネシアを第三世界の雄にまで育て上げた政治家だが、あまりその事績が知られているとは言い難い。本書はそのスカルノの生涯を順序立てて、時系列順に紹介したものとなる。
 宗主国であるオランダ統治下、そして第二次世界大戦における日本占領下において、インドネシアの民族運動がどのように立ち上がり、その中でスカルノがどのように頭角を現し、どのような役割を果たしてきたかがまず述べられる。独立後の国家運営においては、植民地時代の影響の精算が必ずしもうまくいかない中での舵取り、第三世界との連帯を模索したバンドン会議などに触れられ、最後はスハルトらによる反共クーデター、いわゆる9・30事件(この付近の経過や事件の影響については馬場公彦『世界史のなかの文化大革命』に詳しい)によって失脚するまでが述べられる。

 インドネシアはムスリムが大多数を占める国家であるが、一方で共産党の影響も強く、またそれらと交錯する形で民族主義も政治的なファクターとなっている。それらの上に立ち、バランスを保ちながら「指導される民主主義」を推し進めようとしたスカルノは、突出した手腕を持つ個人ではあったのだろうが、であるがゆえにその手腕を保てなくなれば脆かったように思える。
 ただ、そういったスカルノの問題点は、クーデターによって政権を握ったスハルト側の事情により、スカルノを権威化して自分たちの正当化に用いたい思惑から、漂白されたものとなってしまう。このあたりの事情に触れているのも本書の面白いところだ。

 日本語で読めるスカルノの伝記は古いものばかりだったので、今回このような形でコンパクトな評伝が出たことは喜ばしいことである。スカルノ個人についてはもとより、インドネシア現代史についても本書から学ぶところは大きいだろう。
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鉄勒京二

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