島田周平『物語 ナイジェリアの歴史』
副題は「「アフリカの巨人」の実像」。
中公新書の「物語 ○○の歴史」シリーズは様々な国や地域を扱った本を出しており、現在その数は(分野史である「哲学の歴史」、「数学の歴史」を除けば)35冊にのぼる。これまで出てきているのはヨーロッパ諸国が多いが、東南アジア(タイ、ベトナム、ビルマ)やアメリカ、オーストラリアなどあまり歴史書として単独で扱われることのない国々も収録されている。今回の『物語 ナイジェリアの歴史』の刊行により、記念すべきシリーズ初のブラックアフリカ国家の登場となる。
話はサハラ交易から始まるが、中心となるのはウスマン・ダン・フォディオによるソコト王国の成立以降だ。現地の王国政府や地方の首長たちと、イギリス人たちの交渉について語られ、奴隷貿易やイギリスによる植民地化について記述は進む。
この部分については先行研究や史料の問題もあるのかもしれないが、イギリス側の視点が強く、反政府・反植民地運動が始まるまで出てくる人名の大半がイギリス人となっている。
独立に至るまでの自治獲得、そして独立以降は各政党、軍部、また有力政治家たちが主役となる。
いずれの時代にしても、ナイジェリアは北部のイスラームが強い地域と、そうではない南部(これも西部・東部で性格が違う)に分けられ、それぞれの地域の性格の違いがナイジェリアの歴史にとって様々な形で噴出するということがわかるようになっている。著者は歴史が専門というわけではなく地理学科の出身だそうだが、その知見が生かされているのだろう。
ナイジェリア現地の人々の主体性については少し手落ち感があり、その点では不満が残る。反面、ナイジェリアという大地の上で動かざるをえないという点に関してイギリス人も現地人も変わるところはないという点から見れば気付くところは多い。
いずれにせよブラックアフリカについて興味があったり、広く世界各国史についておさえておきたい向きにとっては必読の一冊となっている。
また、中公新書にはこれに飽き足らずブラックアフリカの国々を扱った本を出してもらいたいところだ。