近況・新刊情報と最近読んだ本など

 最近よくTRPGで遊んでいるのですが、自由度が高いのはやはりいいですねえ。近頃はネット環境も充実していて画面越しでも複数人と簡単にやり取りができるので隔世の感があります。

 さて、新刊情報。
 東方選書6月、関尾史郎『三国志の考古学――出土資料からみた三国志と三国時代』。中国史において出土資料から文献史学を再検討するというのは鶴間先生が『人間・始皇帝』でやっていましたが、本書は三国時代について出土資料から検討した一冊の模様。なかなかおもしろそうです。
 山川出版社7月、世界史リブレット人の新刊は坪井祐司『ラッフルズ――海の東南アジア世界と「近代」』。
 中公新書6月、山之内克子『物語オーストリアの歴史』。個人的にはバーベンベルク家時代が気になるわけですが、やっぱりハプスブルク中心なんでしょうか。
 ちくま学芸文庫6月、岡本隆司『増補 中国「反日」の源流』。もとはメチエのものだったので講談社からちくまへ移って増補版が出る模様。積んでいるのでこの機会に読みますかね。
 同7月、アミン・マアルーフ『世界の混乱』。『アイデンティティが人を殺す』に続いてマアルーフの和訳が出るようです。どっちも原著はそう新しい本というわけではないんですが、編集部でマアルーフに注目する何事かでもあったんでしょうかね。

 以下、最近読んだ本。
 

■鈴木勇一郎『電鉄は聖地をめざす――都市と鉄道の日本近代史』
 メチエの新刊案内を見ていて面白そうだなと思っていたので発売日すぐに入手して読んだ本です。
 帯には「小林一三神話を覆す!」なんて書いてあるわけですが、日本近代史、就中財界には疎いもので小林一三という人物を知らなかったんですが、阪急や東宝なんかの事実上の立役者だった人なんですねえ。
 通勤通学客需要を当て込むために郊外の開発とセットで進展した日本の大都市私鉄=電鉄という従来の鉄道史観、またその開発モデルを創始した阪急の小林一三という小林一三伝説を批判し、電鉄の発展の原動力となった要素に寺社参詣需要が大きなウェイトを占めていたこと、寺社側からも鉄道誘致に様々な働きかけがあったこと、また寺社とも絡んで都市の墓地不足から葬式電車の構想があったこと(これは多くが自動車時代の到来により失敗する)などなどが語られています。
 主に扱われるのは①成田鉄道と新勝寺および成田電気と宗吾霊堂、②大師電気鉄道(後の京浜電気鉄道)と川崎大師と穴守稲荷、③池上電気鉄道と池上本門寺、④北大阪鉄道と墓地問題。
 電鉄&郊外開発モデルも寺院と遊園が当初からセットだったり、北大阪鉄道が墓地需要を当て込んでいたのが時代の変化に取り残されたおかげで田園都市鉄道モデルへ転換したりと、様々な起源があり、小林の独創ではない、ということの模様。
 北大阪鉄道以外の電鉄については関東に偏っているので、もう少し関西の私鉄の話も読みたいところではありますが、まあそれはそれとしても面白い一冊でした。


■アミン・マアルーフ『アイデンティティが人を殺す』
 マアルーフと言えば『アラブが見た十字軍』の著者ですが、本書はマアルーフによるエッセイです。学術的に厳密な議論というわけではないんですが、レバノンで産まれ、内戦で故郷を離れてフランス語で著述を続けるカトリック教徒という彼の立場からすると普遍的なものと個別的なものとの落とし所を彼なりに探らざるを得ないのだろうなあというところが分かる読書でした。とは言っても我々とて普段意識することが少ない(国への帰属のアイデンティティが全面に出ることが多い)ものの、重層的なアイデンティティを持っていることに変わりはなく、マアルーフが提起している問題はひとりマアルーフのものでもアウトサイダーと見なされる人々のものでもなく、我々全員のものであろう、というところ。
 排外主義がよろしくない、という単純な話から一歩進んで、アイデンティティの個別的な要素は複数あるということ、にもかかわらずそれらは一人の個人の中では一体となっておりどれかに抵触しただけでその個人の全体に影響を与えるということなどなどが論じられています。
 マアルーフは言語というアイデンティティの構成要素に注目しており、というのも例えば仏教徒であると同時にキリスト教徒であるというようなことはできないけれども、日本語話者であると同時にアラビア語話者であるというようなことは可能であってそれが悲寛容への解毒剤になりうるという議論をしています。
 この辺、ジジェクなら「同じアメリカのニューヨークの大学に務める白人の学者とハーレムの黒人の差よりも、ニューヨークに住む白人の学者とスロヴェニアの学者の方が違いが少ない」などと言ってむしろ皮肉にあげつらうところでしょうが、マアルーフはそういうことは言いません。まあ論の当否というよりは立場の違いでしょう。
 なお、バウマン『コミュニティ』には本書への言及があり、併せて読むと理解が深まるのではないかなと思います。


■丹治愛[編]『知の教科書 批評理論』
 喫茶店で読書するのもカネがかかるよなあ、ということでエアコン効いてるし地元の図書館で読書しようとでかけていったわけですが(まあ地方の市立図書館なので大したものは置いてないんですけども)、たまたま棚で見かけて面白そうだったので読んだ一冊。
 中身はと言えば総論、読者反応論、精神分析批評、脱構築批評、マルクス主義批評、フェミニズム批評、ポストコロニアル批評、ニュー・ヒストリシズムといった章立て。それぞれについて理論の概説と具体例で構成されています。基本的には文学の批評の話なんですが、人文科学やソフト社会科学を勉強しているような人にとっては教養として読んでおくといい一冊になっているように思います。
 個人的にはヘイドン・ホワイト『メタヒストリー』を読む前の予備知識としてちょうどよかったかなと。


■エーリッヒ・フロム『悪について』
 『自由からの逃走』は読んだので次はこれかなということで。
 ただ『自由からの逃走』が比較的一般的に当てはまりそうなことを言っている一方で、この本は臨床的な知見に基づいた議論も組み込まれていて、そのあたり、心理学や精神分析の基礎知識がないと俄には受け入れがたい雰囲気があります。フロイトについてしっかり勉強したわけではないので、面倒臭がらずに基礎からやらないといけないかなあと認識しました。
 心理学と社会の接続性については相変わらず鋭いことを言っているわけですが、一方で歴史学の予備知識があると流石に社会の動きについて心理学に還元しすぎじゃないかという部分もありこの辺の当否も含めて勉強しなおしたいところ。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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