近況・新刊情報と最近読んだ本など

 お久しぶりです。ヘイドン・ホワイト『メタヒストリー』にかかりきりになっていて更新が滞ってしまいました。紹介は下で書きましたが、いずれ他の本や言語論的転回と歴史学の関係性の展開とも絡めてもう少しちゃんとした記事にしたいですね。
 閑話休題。先日、KYOTOオープンサイエンス勉強会さん&せんだい歴史学カフェさんのリアルイベントが京都であったので参加してきました。史料の読み方、特に法律文書についてなどは(私の出身が法学部ということもあって)非常に面白く聞かせていただきました。私は何の肩書もない人間なので、こういった機会があるのはとてもありがたいことですね。
 KYOTOオープンサイエンス勉強会、せんだい歴史学カフェの皆さん、どうもありがとうございました。

 さて、新刊情報。
 平凡社東洋文庫8月、アッタール『神の書』。東洋文庫、やはりアラブ・ペルシア圏であっても思想関連の本は強いですねえ。
 中公新書8月、伊藤之雄『大隈重信』(上・下)。大隈も単純に偉人として持ち上げるには難しい人物ですが、どのような書き方になっているのか。
 ちくま学芸文庫8月、フィリップ・マティザック『古代アテネ旅行ガイド 一日5ドラクマで行く』 。ローマ版とエジプト版は創元社から出ていたと思いますが、古代アテネは学芸文庫に収録される模様です。
 ミネルヴァ書房8月、日本評伝選より森茂暁『懐良親王――日にそへてのかれんとのみ思ふ身に』。森先生の南北朝ものということでこれは期待できそう。
 山川出版7月(山川のことなので例によって翌月にずれ込むかもしれませんが)、日本史リブレット人、川畑恵『尚泰――最後の琉球王』、そして歴史の転換期シリーズ、岸本美緒[編]『1571年――銀の大流通と国家統合』。
 また、山川の世界各国史シリーズが近年の情勢を加筆の上ソフトカバー化されYAMAKAWA SELECTIONとして刊行されるようです。第一回配本はアメリカ史と中国史の模様。

 以下、最近読んだ本。
 

■ヘイドン・ホワイト『メタヒストリー――一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』
 言わずと知れた歴史学に言語論的転回を突き付けた問題の一冊です。いやはや、なかなかの難物でしたがなんとか読み終わりました。原著は1973年なので遅塚『史学概論』などを先に読んでいると既に取り込み済みだったり、また逆に反論済みの議論もあったりするわけですが、歴史叙述の様式をフォルマリズム式に分析し、いくつかの要素の掛け算として表す、というのはなるほどノースロップ・フライの神話批評の流れを汲んで、それを多層的にしたものなのだろうなといったところ(フライの他、ヴィーコの影響も強いようなのですが、こちらは予備知識がなくあまり分からず……)。
 重要だと思うのはホワイトがカール・レーヴィットのブルクハルト評を批判している部分で、事実を以て語らしめているように思われるブルクハルトであってさえ風刺劇というプロットを用いているのだ、という議論です。結局のところ、評価を一切伴わない知りうる限りのすべての事実の羅列でもない限り、歴史叙述には叙述に先立つ形式的な枠組みがある、とういうのはおそらくホワイトの言う通りなのでしょう。少なくとも、当時素朴実証主義的な発想をしていた歴史家がいたとすれば、彼らに対する有効な批判となったと思います。
 ただ、それが結局何もかも相対化してしまったかというとそれは怪しいのでは? というのが近年の論の展開でしょう。リオタール風に言えば同程度のもっともらしさを担保された複数の小さな物語が存在しているが、物語内部での整合性・合理性などは相変わらず問われうるといったところでしょうか。
 ホワイト自身、形式内部での洗練化について否定しているわけではないですし、また歴史学的に許容される範囲の話しかほぼしておらず、その振れ幅の中で倫理的に許されない歴史叙述があるのではないか、という疑問には本書では答えていません。ただ逆に倫理的にさえ何でもありだ、とも言っていません。このあたりはサイードやホワイト自身の『実用的な過去』あたりが問題を解くヒントになりそうです。


■森分大輔『ハンナ・アーレント――屹立する思考の全貌』
 ちくま新書の新刊でアレントについての概説書です。
 中身は全体主義への対抗を軸に主要著作を時系列順に解説していくスタイルを取っています。それぞれの作品を見る際のポイントは以下の3つで、①独立して思考する態度、②「世界疎外」への危惧、③他者への関心。個人的な関心から言うと、①はサイードの知識人論に、②と③はハーバーマスの「主観性の哲学」批判、レヴィナスの他者論あたりとの突き合わせが面白いのかなあという印象ですね。アレントの7作品を新書一冊で扱っているので、アレントの思想の変化発展を見るには適している一方で、個別的な話は別の本を当たりたいところでしょうか(これまで読んだ本だと仲正『悪と全体主義』、同『今こそアーレントを読み直す』と併読するのがいいかと思います)。


■鎌田雄一郎『ゲーム理論入門の入門』
 読書会でアブナー・グライフの『比較歴史制度分析』を読もう、ということになったので、予備的にゲーム理論について勉強するか、ということで読んだ一冊。文章は読みやすく、言ってることは分かるのですが、書かれている理論を使いこなせるようになるかはまた別、といういつものパターン。もちろん入門書としては悪い本ではないと思います。必要に応じて読み返すことになるかなと。


■チャールズ・テイラー『〈ほんもの〉という倫理――近代とその不安』
 チャールズ・テイラーと言えばマイケル・サンデルの師匠でコミュニタリアニズムの代表的論客の一人ですが、以前『公共圏に挑戦する宗教』を読んだ時に「分かりあえなさ」について展開されるテイラーの思考が面白かったのでこれも手にとってみました。
 ざっくり個人主義的思想におけるアトミズムや道具的理性を俎上に載せて、「ほんもの」という倫理の擁護をしているというのは分かるのですが、著者と前提が共有できていないせいかなかなか理解しにくいところが多かったです。ほんもの(authenticity)の語感がよく分かってないのも原因かも?
 入門書だと謳っている『チャールズ・テイラーの思想』を積んでいるので、こちらも読んでみようと思います。


■飲茶『正義の教室――善く生きるための哲学入門』
 飲茶氏は哲学関係の読み物をいろいろ書いているライターさんですが、本書は正義論を小説にしたものです。帯には佐藤優氏の「サンデル教授の正義論よりもずっとためになる」などという文句が載せられていますが、中身はフーコーの権力論を最後に持ってきた以外はサンデルの『これからの「正義」の話をしよう』の展開によく似ています。
 具体的な事例を学園生活の例と極限状態の例をうまく組み合わせて使うことによってすんなり話が進んでいきます。
 ネタバレを気にするような作品でもないので言ってしまいますが、功利主義、自由主義、直観主義の順番に検討が進み、最終的な作中主人公の結論自体が問題の絶え間ない問い返しと実存主義の中間のようなものになっているため(概略、他者の視線に関わりなく、自分なりの善と正義を目指す)、間主観性を重視する熟議民主主義に近付いているサンデルやハーバーマス、後期ロールズのような議論は参照されていません。
 このあたりは手落ちだと思いますが、読み物としてはよくできており、それこそ『これからの「正義」の話をしよう』の前に読んでおくと理解が深まるのではないかと思います。


■筒井康隆『文学部唯野教授』
 筒井康隆も色々問題含みの作家で、本作も大学描写がカリカチュアライズされているとは言え少々やり過ぎではないかと思うところがあるものの、作中で唯野教授が展開する講義は簡にして要を得ており、ざっくり文学理論についてイメージを掴んで叩き台にする分にはいいんじゃないのかな、という一冊になっています。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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