近況・新刊情報と最近読んだ本など

 一部読書家界隈では劉慈欣『三体』というSF小説が話題になっています。本格SFは『華竜の宮』以来ですが、気になったので読んでみました。

 文革で、ある理論物理学者が惨殺されるシーンから始まるショッキングな開幕で、三体問題がキーになりつつ話が進行していく展開。色々な自然科学用語も出てきますが、特に意味が取りにくいということもなく非常に面白く読めました。続編もあるそうで、邦訳が待たれるところ。ただ、中盤以降で明らかになるある事実が帯に書いてあって、販促のためとは言えネタバレじゃねえかみたいな感想が脳裏をよぎったのも事実。
 なんにせよ、面白い本なのでおすすめです。

 また、16世紀フィレンツェを舞台に女流画家を主人公としたマンガ、『アルテ』がアニメ化されるようです。原作が好きなので楽しみにしているのですが、原作の絵の情報密度が高いので作画がなかなか大変になりそうな気がします。『将国のアルタイル』の二の轍を踏むことはないように願いたいところ。アニメ公式サイトはこちらです。

 さて、新刊情報。
 角川選書8月、黒田基樹『戦国大名・伊勢宗瑞』。角川選書の評伝単発ものは割といい本が多いので要チェック。著者は黒田先生ですし安心でしょう。
 中公新書8月、和田裕弘『織田信忠――天下人の嫡男』。信忠は割と興味深い人物ではあるのですが、新書一冊分だけ書けることがあるのか気になります。同じく中公新書から中野等著『太閤検地』。
 同9月、滝川幸司『菅原道真――学者政治家の栄光と没落』。
 京都大学学術出版会8月、プルタルコス『英雄伝』の第五巻。アレクサンドロスやデモステネスが収録されている巻となります。
 角川新書9月、大西泰正『「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家』。
 中公文庫9月にはミシュレの『ジャンヌ・ダルク』が収録されるようです。訳者は森井真、田代葆両氏。
 

■川畑恵『尚泰――最後の琉球王』
 日本史リブレット人の一冊。尚泰というのもあまり表に出てこない人で、本書も尚泰の評伝としての性格が半分ながら、琉球処分概説としての性格がもう半分を占めているという塩梅。尚泰があまり表に出てこないというのも担ぎ上げられて押し込められていたというよりは自身の意志で(一部は戦略的に)引きこもっていたようなところもあるようです。
 また、琉球王族の日本化の過程も並行して描くことで琉球での復辟を望むような勢力が削がれていった経緯もわかるようになっています。


■中村隆文『リベラリズムの系譜学』
 個人的な話ですが、大学時代に法学部の西洋政治思想史の講義で半期を通じて自由論について扱ったものを受講したことがあるのですが、それを思い出して面白かった一冊です。「リベラリズム」という概念を過去にさかのぼって適用しているように読めてしまうのでそこは注意が必要ですが、近代自由主義の前提条件となる民主主義の成立が視野に入るので、古代ギリシア哲学や社会契約論についての説明も丁寧で分かりやすい一冊となっています。
 英米系の政治思想のみならずドイツのハーバーマスにも言及があったり、ロールズで終わらずコミュニタリアンやアマルティア・センのケイパビリティ論、あるいはリバタリアン・パターナリズムにも解説が及んでいたりとかゆいところに手が届くのも嬉しいところ。やや専門的な議論もありますが、予備知識として神島『正義とは何か』あたりを読んでから取り掛かるといいのではないかと思います。


■廣野由美子『批評理論入門――『フランケンシュタイン』解剖講義』
 メアリー・シェリー『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』を読解することを通じて批評理論の各分野を実例つきで解説していくスタイルの一冊。『フランケンシュタイン』原作は私は読んだことがないのですが、この一冊を通じてだいたいあらすじが把握できてしまうというすぐれもの(?)。前半では『フランケンシュタイン』全編を通じた小説技法、後半では『フランケンシュタイン』の部分部分を取り上げて批評理論の各分野について扱っています。
 個人的には丹治[編]『知の教科書 批評理論』の方がわかりやすかったですが、廣野氏の本書もこちらはこちらで一つの作品を通じて多面的に批評してみせるというスタイルを取っているので、一つの作品を複数の読み方で読む、という体験ができるのは大きいかと。今でも書店に並んでいて安価なのもこちらですし、最初に手にとってみる本としてもいい一冊だと思います。


■仲正昌樹『思想家ドラッカーを読む――リベラルと保守のあいだで』
 必要に迫られて読むことはあるとは言え、私がビジネス書嫌いなのはこのブログの読者であればお察しいただけると思います。ドラッカー関連もビジネス書の性格のものが多く敬遠していたのですが、この本はご存知仲正昌樹先生の著作なので購入。案に違わず冒頭から自己啓発本をクソミソにこき下ろしていて思わず笑ったわけですが、それは措いてもなかなかおもしろい一冊でした。
 ドラッカー自身の考え方を思想史の中に位置づける、という作業はなるほどビジネス書がドラッカーを取り上げても等閑視するであろう部分で、若きドラッカーの半生、彼のフロイトに対する態度やフリードリッヒ・ユリウス・シュタールについての論文などの分析を通じて、ユダヤ性、神学との距離、ヘーゲル的弁証法などいくつかの軸からドラッカーの思想が浮き彫りにされています(なお、法哲学の巨人ハンス・ケルゼンはドラッカーの義理の叔父にあたるとか)。このあたりが一番おもしろく、後半はやや解説に終始し仲正節が弱い印象がありますが、一通りのことはざっくり頭には入ったように思います。
 ドラッカーについて「ストレスなく」読めた、というのは個人的に大きな収穫でした。
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鉄勒京二

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