近況・新刊情報と最近読んだ本など

 お久しぶりです。一ヶ月くらい記事を書いていませんでしたが、裏では事情があって盛期オスマン帝国の文化史を色々調べているところです。それなりに色々読んでいるはずの地域・時代でも分野が微妙にズレると知らないことがザクザク出てきて勉強不足を痛感しますねえ。中でもちょっとおもしろかったのはイスタンブルにはスレイマン大帝の大宰相だったイブラヒム・パシャの邸宅が現存しているそうで、今は美術博物館兼カフェになっているそうです。

 もう一点、今年のサントリー学芸賞が発表されましたが、藤原辰史先生が『分解の哲学』で受賞されたようでめでたいことです。サントリー学芸賞、割と攻めた選考をすることが多い(そのため稀にちょっとハズすこともありますが)ので納得の受賞。

 さて、新刊情報。
 河出書房12月、菊池良生『ウィーン包囲――オスマン帝国と神聖ローマ帝国の激闘』。紹介文に「世界征服を企てるオスマン帝国」なんていう文言が踊っているので思わず笑ってしまいましたが、まあ菊池先生の本なら読み物としては面白いものになっているのではないでしょうか。
 白水社今月、ウルリヒ・メーラート『東ドイツ史1945-1990』。東独研究も色々盛り上がっているようで。同来月、エイドリアン・ゴールズワーシー『古代ローマ名将列伝』。古代ローマ、コンテンツとして割と人気が高い割にこの手の本が出ることが少ない気がしますが、面白そうです。
 吉川弘文館からは人物叢書シリーズ、森公章『阿倍仲麻呂』。結構な有名どころでも(有名どころだからこそかもしれませんが)後回しになっている人物がちょいちょいあるシリーズですが、阿倍仲麻呂もまだだったんですね……。また翌月には同シリーズで酒井紀美『経覚』。呉座先生の『応仁の乱』でも中心視点の一人として取り上げられていましたが、今回単独で評伝が出ることになります。
 山川出版社12月、歴史の転換期シリーズ、千葉敏之[編]『1187年 巨大信仰圏の出現』。1187年と言えばサラディンのイェルサレム奪還の年ですが、どんな内容になっているのか非常に楽しみです。

 以下、最近読んだ本。

■アブナー・グライフ『比較歴史制度分析』
 読書会が終了したのでやっと紹介が書けます。
 中世の地中海を舞台に、ヨーロッパとイスラーム世界の制度(ここでいう制度は公的制度だけではなく、もっと広い意味合いで使われています)の比較をゲーム理論を使ってやってみようという本。公的制度は同一でも出力される結果が異なったり、出力される結果によって徐々にゲームの前提が変わっていく(準パラメータの変化)ことによって自己再生産的な制度であっても自己弱体化的/自己強化的の別が生まれたりと面白い論点が非常に多く詰め込まれてます。
 社会科学にありがちな理論倒れも批判し、史資料による検証との往復チェックを主張しているのも抜かり無いところ。もっと評価されていい本だと思いますが、一方で経済学の素養と歴史学の素養の両方がないとグライフの手法を使いこなすのは難しそうだなあとも思いますね。


■中澤豊『哲学者マクルーハン――知の抗争としてのメディア史』
 古代ギリシャの哲学者とソフィストの対立に関して、ソフィスト側を再評価しつつ、現代の普通のアカデミシャンとマクルーハンの対立と併置させるというなかなかアクロバティックな本です。マクルーハン自身の人脈が批評理論の有名所(例えばノースロップ・フライなど)と近いこともあって、批評理論の予備知識があればもうちょっと分かりやすいのかなという気はしました。


■ロバート・イーグルストン『ポストモダニズムとホロコーストの否定』
■ジャン・フランソワ=リオタール『文の抗争』
 イーグルストンの本はおなじみ岩波のポストモダンブックスシリーズですが、ポストモダンの道具立てを使ってホロコースト否定論を論駁するという一冊。使われてるのがリオタールの『文の抗争』でまたお前かと思いつつ、原典の訳書も一緒に読んでみました。例によってポストモダンブックスは非常に分かりやすい書き方をしているのですが(今回の問題に関して言えば言説のジャンルが重要という説明が腑に落ちる)、リオタール本人の文章はなかなかの難物。
 文にはいくつかの軸線でステータスがあることを意識しろ、というのはなんとなく分かりました。


■熊野純彦『カント――世界の限界を経験することは可能か』
■貫成人『カント――わたしは何を望みうるのか』
 カント関連を二冊。いずれも非常に分かりやすい本で、三批判書の位置づけやカントのバックグラウンドなども含め、少ないページ数で適切にまとまっています。実は熊野訳の三批判書を揃えてしまったので近いうちに読みたいのですが、なかなか手が出ないんですよねえ。


■柿木伸之『ヴァルター・ベンヤミン――闇を歩く批評』
 岩波新書より、ベンヤミン本。読みやすかったですが、どちらかというと「ベンヤミンの思想」的な本というより「評伝・ベンヤミン」的な性格が強かったかなあと。


■リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』
 E・H・カー『歴史とは何か』の21世紀版という文句が堂々と帯に踊っていますが、どちらかというとアクチュアルかつ具体的な問題に引きつけて歴史学について語っており(それが悪いわけではないのですが)、歴史理論方面の記述は弱い本でした。ただ、パブリック・ヒストリーの動向や、日本も含めて世界に目配りした記述はなるほど評判がいいだけのことはあるなと。


■上村忠男『ヴィーコ――学問の起源へ』
 かなり前に読み終わってたんですが、近況記事に載せるのを忘れていたのでこのタイミングに。
 ヘイドン・ホワイトが『メタヒストリー』でヴィーコ『新しい学』の影響を受けたと自分で言っているので、理解の足しになるかと思ってヴィーコの入門書を手にとったわけですが、あまりその方面での収穫は得られず。まあヴィーコもかなり手広く色々なことをやっている人なので、切り取り方によっては関心にかすらないのも致し方ないところ。
 ただ、ヴィーコの学問観についてざっとさらう分にはいい本かと思います。


■村上紀夫『歴史学で卒業論文を書くために』
 村上先生は日本史の方なので、基本的には日本史の事情が語られています。私は単なるアマチュアなのでふむふむと言いながら頷いているだけでしたが、東洋史・西洋史の学生でもある程度は役に立つのではないでしょうか(特にスケジュール管理のあたり)。


■藤原辰史『食べること考えること』
 藤原先生が各所で発表したエッセイ的な文章を一冊にまとめたもの。藤原先生の関心を知っているとなるほどと思う部分もあるのですが、これ単独で読んでいるとちょっと軽めの文章の集合体という印象になってしまうかなあという気はしますね。もちろん、そういう読み方をしてもいいのですが。
 表紙に「定価2400円+悪税」と書いてあるのには笑ってしまいました。
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鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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