ウルリヒ・メーラート『東ドイツ史 1945-1990』


 邦語で読めるものとしてはヴェーバー『ドイツ民主共和国史』以来、実に30年近くぶりとなる東ドイツの通史。訳者は東ドイツ史の研究者である伊豆田俊輔氏。
 
 本書は政治史を中心においたスタンダードな通史となっており、副題通り東ドイツ史の一部を切り出すのではなく、前史となるソ連占領区時代から崩壊までを描き切っている。
 通常、一国史を扱おうとすれば政権中央の動向が重視される。本書でも訳者解説で述べられている通り、ドイツ社会主義統一党(SED)の権力確立の過程と、東ドイツ末期の解体過程に重点が置かれているのだが、一方では政治といっても周辺に位置すると言える大衆組織の役割についても目配りがされている。
 東独の大衆組織については、著者メーラートの専門だそうで、本書の読みどころのひとつだろう。自由ドイツ青年(FDJ)や自由ドイツ労働組合同盟(FDGB)は生活世界と政治世界のパイプの役割を担っており、上下双方のせめぎ合いの場ともなっている。
 一方で文化史、社会史への目配りが(なされていないわけではないが)やや薄く物足りないところは残る。

 とは言え、上で述べた通り政治史中心かつ本文の厚さはおよそ200頁程度、また冒頭部のSED指導者のソ連訪問の場面をはじめ、ドキュメンタリー調の描写も各所に挟まれ、さらに訳文もこなれているために全体的に読みやすい本となっている。
 先日紹介した河合『政治がつむぎだす日常』より先に本書を読んでおけば予備知識として便利だろうし、また伸井『ニセドイツ』シリーズで東独に興味を持った人が次に読む一冊としてもよい本だろう。著者・訳者による文献紹介も充実しており、ここからさらに芋づる式に読む本を探すこともできる。東独に興味があるがどこから手を出していいかわからない人はまず本書を手に取るといいのではないだろうか。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
当ブログは一介の歴史好きが読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は下記メールフォームか拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター
リンク
月別アーカイブ