近況・新刊情報と最近読んだ本など

 年内最後の更新になりそうです。今年もお世話になりました、来年もよろしくお願いします。
 今年もなんとか年間読書冊数が100冊を超えたのでぼちぼち勉強はできたかなあといったところ。読書会でも重田園江『ミシェル・フーコー』、鎌田雄一郎『ゲーム理論入門の入門』、アブナー・グライフ『比較歴史制度分析』、山下範久[編]『帝国論』と四冊読めたので来年も継続していきたいですね。次はバーク『文化史とは何か』かハーバーマス『公共性の構造転換』になる予定。

 ところで、11月12月は京都の上七軒にある上七軒文庫というところで講義を受けてきました。大学の先生が(市民講座のようにレベルを落としたものではない)講義を一般に開放してくれている場ということで、私のような、何ら肩書を持たない人間にはとてもありがたい場所です。
 受講してきたのは師茂樹先生の「井筒俊彦を読む:「東洋哲学」入門」の第一回と第二回です。井筒は取り扱っている範囲が非常に広く、検証しながら読むにもなかなか骨が折れるのですが、この講義では仏教学の視点から井筒の文章を読んでいくことによって考察を深めていく方針を取っています。

 もう一点、講談社がホワイトハートコミックスという新レーベルを立ち上げるそうなのですが、創刊ラインナップのうちに望月桜先生作画のエルトゥールル帝国シリーズ『囚われの歌姫』(原作:貴嶋啓先生)という作品が。実はこれ、考証を手伝わせてもらっていまして、原稿も確認しています。配信は2月からなので少し先ですが、よい作品なのでぜひよろしくお願いします。


 さて、新刊情報。
 ちくま学芸文庫1月、R・W・サザン『ヨーロッパとイスラーム世界』。原題を見る限り中世ヨーロッパのイスラーム観がメインになるのでしょうかね。
 講談社学術文庫1月、弓削達『地中海世界 ギリシア・ローマの歴史』。新書西洋史シリーズで出たものですが、シリーズまるごとではなくこれだけ学術文庫に収録されるようですね。また2月には森茂暁先生の『南朝全史』が収録される模様。
 現代新書1月、高橋弘美『物語 パリの歴史』。まるで中公新書のようなタイトルですが、版元は講談社。
 岩波新書1月、丸橋充拓『江南の発展 南宋まで――シリーズ 中国の歴史②』。①も積んでいるのでさっさと読んでしまっておかねばなりません。同2月、大津透『律令国家と隋唐文明』。
 吉川弘文館1月は人物叢書が三冊一気に出ます。藤井譲治『徳川家康』、五野井隆史『ルイス・フロイス』、小川剛生『二条良基』。特に小川先生の二条良基本は楽しみですね。なお2月には山本博文『徳川秀忠』も出る模様。

 以下、最近読んだ本。
 

■山下範久[編]『帝国論』
 『比較歴史制度分析』が終わったので、次の読書会の対象に選んだ本です。
 ネグリ&ハートの『〈帝国〉』の問題提起を受けて、社会科学、人文科学の各分野の研究者たちが現代の帝国論について縦横無尽に検討した一冊となっています。ネグリ&ハートの〈帝国〉論が全世界を覆う権力のネットワークとしての帝国を扱うのに対し、主流の社会科学は個別具体的なヘゲモニーを握る主体を帝国と見なす「帝国」論をとりがちという整理はなるほどというところ。全体を通じてひとつの結論が出るタイプの本ではないですが、交通整理はできているのでこれ一冊読めば見通しは効くようになるかなと。
 特に面白かったのは重田先生のカール・シュミットのアメリカ帝国論で、どちらかと言えば哲学的な関心から(もちろん警戒しつつ)シュミットに接近していった人間としては、現代アメリカという具体的な対象にシュミットがどう接していたのかということが分かったのが収穫でした。シュミット『大地のノモス』は未読ですが、いずれ読んでみたいところ。
 

■井筒俊彦『意識と本質』
■井筒俊彦『意味の深みへ』
 上でも書きましたが、上七軒文庫で井筒絡みの講義があったので、対象になっている論文が収録されている井筒の本を二冊とも読み切ってしまいました。特に『意識と本質』はかなり長い間積んでいたので、今回の講義が読むためのモチベーションを作り出してくれた面は否定できないところ。
 『意識と本質』は東洋哲学の共時的構造化を目指した本で、『意味の深みへ』(の第一部)は、井筒がなぜそういうことを目指したのかという背景に一部関わる文章が収録されています。
 『意識と本質』は言っていることはなんとなくわかるものの扱っている範囲が老荘、イスラーム神秘哲学、仏教、現象学、印哲などなど幅広く、その点では難しい本です。以前紹介しましたが斎藤先生の『「東洋」哲学の根本問題』がいいガイドになったので、先に読んでおいてよかったなあというところ。
 『意味の深みへ』では異文化間対話の可能性について触れられていますが、「文化の弁証法」なる語法に大川周明の残滓を感じてやや渋い顔になりました。井筒と大川の関係は主にイスラーム関連で触れられることが多いですが、こういう面でも影響があったのかなあと。フランクフルト学派にかぶれているせいで同一化の圧力のようなものには警戒的なので、井筒も手放しに礼賛はできないなあという感想。


■檜垣立哉『ドゥルーズ――解けない問いを生きる[増補新版]』
 NHK出版から出ていたものの増補版がちくま学芸文庫に収録されました。
 フランス現代思想の中でも(デリダ、フーコー、レヴィナスなどと比べても)とりわけ何を言っているのかよく分からないのがドゥルーズですが、本書はそのドゥルーズの思想をなるべく平易に解説しようとしているもの。とは言え、ドゥルーズの思想が極めて難解なので必要とされる前提知識が多く、本書もそのへんすっ飛ばしているところはあるので、例えばカントなんかの予備知識はあった方がいいんじゃないかなあといったところ。個人的には井筒の理屈を通して理解できたので、上の読書が変なところで生きてきたことになりますね。


■藤野寛『「承認」の哲学――他者に認められるとはどういうことか』
 Amazonでの評価はあまり高くないですが、アクセル・ホネットの思想をわかりやすく紹介しているという一点のみにおいても読む価値のある本です。フランクフルト学派の構成メンバーについては、第一世代のホルクハイマーとアドルノに加えてベンヤミン、フロム、第二世代のハーバーマスあたりまでは日本語で読める解説書があるんですが、第三世代の代表格であるホネットは(本人の著作の和訳はそこそこあるものの)解説書がなかったので、まずは本書を読んでくれということになりそう。
 内容としてはホネットの思想を紹介しつつ、(ドイツと英米系の)政治哲学との対比を行い、またところどころ著者の見解を差し挟む、という方針。著者自信の態度は煮え切らないところがしばしばあるのですが、まあそこは個人的には重要ではなかったのでよしとします。
 承認を「愛」「人権尊重」「業績評価」に分類するという整理は分かりやすく、また他者を認識において二級カテゴリーに入れてしまう「寛容」の問題点も示されているのは面白いところでした。


■慎改康之『ミシェル・フーコー――自己から脱け出すための哲学』
 岩波新書から出たフーコーの概説。フーコーの思想を年代順に追っていくのに便利な本で、記述は概ね時系列順になっています。伝記的事実はさわり程度に止め(というのは、フーコー自身がそういう態度を嫌ったからでしょうが)、フーコーの思想に的を絞っているのは好判断だったと思います。
 個人的には認識が『監獄の誕生』で止まっていた(というのは重田園江『ミシェル・フーコー』のインパクトが強かったからですが)ので性の歴史への展開の仕方と理由が分かったのが収穫でした。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
西アジア史が好きな一介の歴史好き。歴史理論にも興味があり哲学関係の本も読みます。
望月桜先生の『囚われの歌姫』を考証面でお手伝い中。

当ブログは管理人が読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
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