近況・新刊情報と最近読んだ本など

 相変わらず仕事以外は引きこもりの生活が続いています。仕事の方は食料品流通にかかわっているのでどういう状況になろうと開けるほかないので、給料の心配はあまりしなくていいのですが、それ以外がどうにも。仕事帰りに寄れる最寄りのジュンク堂も休業中なので新刊もなかなかチェックできず。
 一方でオンライン化もいろいろ進んでいるようです。以前お世話になった上七軒文庫もここ最近はオンライン講義に切り替えているようで、遠方でも興味のある方はチェックされるとよいのではないでしょうか。

 「囚われの歌姫」は四話が配信中ですのでよろしくお願いします。今回は私も少し画面に出るところでお手伝いさせていただいています。


 さて、新刊情報。出版スケジュールも昨今の情勢下でいろいろずれ込んできているようではありますが、出版社、著者の方々には無理をしない程度に頑張っていただきたいものです。
 岩波新書5月、中国の歴史シリーズ第四巻檀上寛『陸海の交錯 明朝の興亡』。
 刀水書房2021年春、永田雄三『トルコの歴史』。出版社のサイトを見てもタイトル以外の情報がほぼないんですが、どの程度のタイムスパンで扱った本になるんでしょうかね。

 以下、最近読んだ本。
 

■佐藤義之『レヴィナス――「顔」と形而上学のはざまで』
 ドゥルーズやデリダほどではないにしろレヴィナスも大概ややこしいものを書く哲学者ですが、本書は非常にわかりやすかったですね。レヴィナス本人が現象学から出発している以上、レヴィナスの記述を事象に立ち返って検討していき、その過程でレヴィナスの限界を見極めるものの、一方でレヴィナスから拾えるものを拾い出していく、というスタイル。
 特に前半は(本人の名前は出ないのですが)観測点としてハーバーマスの概念が出てきたりするので、対比させて読むと理解が深まります。学の前提としての倫理、という従来の現象学に対するレヴィナスの批判は、ハーバーマスの「主観性の哲学批判」に通じるところがあるように思いますし、「顔」に基づく非対称的な二者関係から、三者以上の対称関係に移った後はハーバーマスと並行して考えることもできるように思います(もっとも、本書の議論に則ると、この非対称的二者関係から三者以上の対称関係に移行する部分には飛躍がある、ということになるのですが)。
 斎藤先生の『レヴィナス――無起源からの思考』と熊野先生の『レヴィナス入門』と本書とを併せて三冊読めば、ある程度はそれぞれのレヴィナス入門に書いてあることが相互参照的に理解できるようになるんじゃないかなと思います。


■ユルゲン・ハーバーマス『後期資本主義における正当化の問題』
 後期資本主義に危機が来たるとすればそれはどんなものか、というのが議論の骨子。
 『公共性の構造転換』を読み終わったので続けて読んでみたわけですが、訳者がこの時期の著者は果たして読む人のことを考えていたのかとこぼすくらいの難物。
 巻末の解説である程度、のちの議論との連続性や変わった部分などを頭に入れてから読めばぎりぎりついていけるかなあというところ。現状では正当化の問題の部分は『公共性の~』の延長線上にあり、経済システムの危機が政治システムへ移し替えられるという部分や、合理性の危機の部分についてはある程度マルクス読んでからの方がよかったんじゃないのかなという程度の理解です。
 文化システムというものが後の生活世界概念に相当する、というのはなるほどというところですが。ハーバーマス=ルーマン論争の詳細を押さえていないのでそこもちょっと手を伸ばさねばしっかり理解はできなさそうなので先は長いですね。


■前田勉『江戸の読書会――会読の思想史』
 上と同じく『公共性の構造転換』に引き続いて読んでみようと思っていた本です。
 江戸期の「会読」(議論する読書会)の文化を検討し、近世~近代日本の公共圏の成立を論じようという一冊。思想史の本ではありますが、思想の内容にはあまり踏み込まず、専らその思想が議論されていた場の形式に重きを置いて議論が進んでいきます。
 儒教は旧態依然とした体制教学というイメージを持たれることが多いと思いますが、本書によればその儒学を江戸期の人々が議論していた形態(身分の上下に関わらず対等に発言権があり、発言もまたその理の有無のみで量られる)こそが、近代的な公共圏の成立に繋がっていった、としています。
 藩校で行われていたのは武士階級の議論(ただし、武士階級内での階級差は問題にされない傾向にありました)であり、また政治的な議論を行うことも禁じられていたわけですが、これが私塾になってくると武士以外の人々も参加し、また政治を論じることも多くなってくる、とのこと。
 著者の前田先生は思想史研究の方で、ハーバーマスはもちろん、カイヨワなんかも引いてくるので歴史学分野の日本史研究とは当然ながら毛色が違ってその辺も面白いところですね。


■J・S・ミル『自由論』
 上の『江戸の読書会』でも近代日本の民権運動にミルの『自由論』こと『自由之理』が影響を与えた旨が述べられていましたし、新訳も出たということでこの機会に。政治分野での近代自由論の基礎の一つはここにあるわけで、古いからと言って読まずに済ませるわけにはいかんなあという一冊。
 内容は有名ですし危害原理なんかはよく知られていると思いますが、論述の方法を見ていると、予期される反論を述べ、それに再反論を加えるという手法を取っていて、「会読」に慣れていた人々にとってはバーチャルな会読としてイメージしやすかったんじゃなかろうか、というような発見があったりしてやはり翻訳でもいいので古典に直接当たるのは重要ですね。
 歴史学に関心のある人間からすると、東洋蔑視が目に付いたり、個性が称揚されていてまさにスマイルズ『自助論』と同時代の書物だなあという印象を覚えたりするところもあったりします。
 さておき、言論の自由を扱った部分などは現代の時事的な問題にも直接かかわってきますし、論理展開も分かりやすく、訳文も割とこなれているので政治哲学関係の本としてはすこぶる読みやすい部類に入ります。興味のある人はしり込みせず読んでみていいのではないでしょうか。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
西アジア史が好きな一介の歴史好き。歴史理論にも興味があり哲学関係の本も読みます。
望月桜先生の『囚われの歌姫』を考証面でお手伝い中。

当ブログは管理人が読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は下記メールフォームか拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター
リンク
月別アーカイブ