ピーター・バーク『文化史とは何か 増補改訂版第2版』


 史学史、史学理論について扱った本だが、なぜテーマが文化史なのかには説明を要する。数え方にはばらつきがあるが、1970~80年代において、歴史学は「文化論的転回」を迎えた、とされる。これは、従来の社会史を基調とした研究の潮流が行き詰まりを見せるのと相前後して「新しい文化史」として現れた。本書は、その「新しい文化史」について、前史および今後の展望も含めて述べたものとなる。
 
 文化史自体はホイジンガやブルクハルトに代表されるように19世紀から存在しており、そう新しいものではない。
 ではいわゆる「新しい文化史」の特徴は何か。それはマルクス主義的な経済決定論へのカウンターとしての文化の基底性の強調や、従来エリート文化だけを対象としてきた文化史が、サブ・カルチャー、カウンター・カルチャーなども取り扱うことにある。

 この転回の動因となったものはいくつかあるが、モースやギーアツ、そしてレヴィ=ストロースなどの文化人類学、あるいは文化・社会理論家であるバフチン、エリアス、フーコー、ブルデューらの影響が強調される。
 本書の著者バークはケンブリッジ大学に所属する歴史学者であり、主に欧文の欧米史研究を取り上ており(部分的に日本や中国、イスラーム世界に関する研究への目配りもある)、当然のことながら日本の日本史研究への言及はない。ただ、本書のこの部分を読むにあたっては、欧米の文化人類学と歴史学の関係とパラレルなものとして日本における網野史学に代表される民俗学と歴史学の結びつきのようなものを思い浮かべると理解しやすいだろう。
 これらに加え、いわゆるポストモダン思想以降の構築主義の台頭を受けた歴史学の方法論の変容(特に物語論への対応、あるいはその応用)なども含めて、具体的な研究の紹介も交えながら記述が進む。

 バーク自身は文化の基底性は限定的なもので、文化史こそが唯一の歴史学の方法であるなどと主張するつもりはないとしつつ、文化史が明らかにしたものを今後も歴史学は無視できないであろう、としている。穏当な結論ではある。

 ともあれ、ある程度予備知識と関心がないと砂を噛むような記述が続く本ではあるが、海外の研究のトレンドの変化を知るという意味ではしっかり読んでおく価値があると言えるだろう。その上での使い方は難しい本ではあるが、歴史学に応用されている隣接分野に触れる際のガイドとして用いると便利である(個人的にはバフチンとモースに興味を持ったので入門書に手を出した)。
 また、本書の訳者の長谷川貴彦氏には『現代歴史学への展望』という著書もあり、こちらも併読すると理解が深まるのでオススメである。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
西アジア史が好きな一介の歴史好き。歴史理論にも興味があり哲学関係の本も読みます。
望月桜先生の『囚われの歌姫』を考証面でお手伝い中。

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