近況・新刊情報と最近読んだ本など

 読書会で『文化史とは何か』を終えたので、次は『財政゠軍事国家の衝撃』に手を出しています。普段読まない分野の本というのはやはり頭を使いますねえ。

 本屋はやっと通常営業に戻ったようですが、新型コロナ自体が消えたわけではないので用心深くいきたいものです。

 さて、新刊情報。
 刊行月は未定のようですが、今年中に名古屋大学出版会より櫻井康人『十字軍国家の研究――エルサレム王国の構造』が出るようです。エルサレム王国について日本語で読める研究書が出るというのはまさにビッグニュースで、お値段8800円とそこそこしますが、これは買うほかないでしょう。
 講談社学術文庫7月、アンリ・ピレンヌ/『ヨーロッパ世界の誕生――マホメットとシャルルマーニュ』。かなり前に出た訳書ですが、文庫化されるようです。また同月、廣岡正久『ロシア正教の千年』。NHKブックスからの収録の模様。
 中公新書6月、中谷功治『ビザンツ帝国――千年の興亡と皇帝たち』。このあいだオスマン帝国通史が出た中公新書から、今度はビザンツ通史が出るようです。ビザンツを扱った新書はかなり長い間出ていないので新たなスタンダードとなることを期待しましょう。また同月、倉沢愛子『インドネシア大虐殺――二つのクーデターと史上最大級の惨劇』。こちらは現代史の本。『世界史のなかの文化大革命』あたりと併せて読むといいかもしれません。
 白水社6月、マイク・ラポート『ナポレオン戦争』。ナポレオン戦争を初の総力戦として位置づけての一冊となるようです。
 山川出版社6月、『戦国期足利将軍研究の最前線』。「○○研究の最前線」シリーズは洋泉社の新書で出ていましたが、洋泉社がなくなってどうなるのかと心配していたら山川が引き継いでくれたようです。

 以下、最近読んだ本。

■桑野隆『[増補] バフチン――カーニヴァル・対話・笑い』
 『文化史とは何か』を読んでいる時に名前が出てきたので入門書を一冊。個人的には文学理論の人というイメージが強く、一方歴史学との関係ではカーニヴァル論がやはり重要だと思われますが、裏表紙の文言によれば「美学、哲学から言語学、記号論等々をまたぐ、領域横断的な知のあり方が本領」とのこと。実際、中身を読むと色々手広くやっていることがわかります。
 いずれにしても、最初に取り上げられている「相互主体性」が重要なところでしょうし、文学作品であれ記号であれ、内部でのせめぎ合いに着目した思想なのだろう、という印象を受けます。
 しっかり理解できたとは言い難いのでいずれ再読したいところ。


■ジークムント・バウマン『リキッド・モダニティ――液状化する社会』
 バウマンの本はこれまで何冊か読んできましたし、紹介も書きましたが、本書はバウマンのキー概念「リキッド・モダニティ」について扱ったもの。
 価値の相対化や階級の分解などを総じてリキッドと表現している模様。形式上、個人化した人々が、自律的な個人となるにはギャップがあるにも関わらず、個人化という表彰を踏み台に自己責任論や自己啓発が跋扈するという分析はなるほどというところ。
 本来問題を解決するには公共圏への問題の持ち出しと大文字の政治が必要になる、とバウマンは書きます。
 面白かったのは公共圏の消滅(あるいは変容)を問題にしているのはハーバーマスと共通しているものの、ハーバーマスの公と私の問題の理解についてバウマンが真逆のことを言っているところ。
 ハーバーマスは公的合理化が私的生活空間を侵食する(=「生活世界の植民地化」)ことを問題にするわけですが、バウマンはそれはオーウェル的ディストピアの想像力の残滓にすぎないとし、むしろ、公共圏に私的な問題が私的なまま持ち出され、大文字の政治化されないことを問題にしています。
 個人的には両立しうる話じゃないのかという気はするんですが、このあたりの議論の整理も宿題となりました。


■モース研究会『マルセル・モースの世界』
 モースと言えば専ら『贈与論』を著した人類学者として知られるわけで、実際その面の記述を期待して読んだんですが、その実、「その捉え方はステロタイプすぎる」というのが本書の主張でした。社会学者モース、社会主義運動家モースというようなモースの複数の顔を示している一冊となっています。
 書簡がきっちり残っているので叔父デュルケームとの学術的、私的両方のやり取りがわかったり、彼の政治思想と学術方面での業績がリンクしていることがわかったり、モースという人を知るにあたっては非常に良い本だったと思います。
 ただ、著作の解説が体系立てて行われているわけではないので、モースの本を読むにあたって横に置いて参照するような使い方はできなかなと(予備知識としては役立つと思いますが)。


■貫成人『フーコー――主体という夢:生の権力』
■貫成人『ニーチェ――すべてを思い切るために:力への意志』
 貫先生の入門書シリーズを二冊。フーコーの方はざっくりフーコーの生権力論に話を絞って進めています。まあ、フーコーは入門書も多いので何冊か併せて読む中の一冊としてはいいんじゃないかなと。
 ニーチェの方はなんかこう、ドゥルーズのニーチェ解釈に引きつけているような気がするんですが、これは私がニーチェもドゥルーズもよく知らないからなのか実際そうなのか、ちょっとこれも宿題ですね。


■田野大輔『ファシズムの教室――なぜ集団は暴走するのか』
 田野先生のファシズム体験学習の講義については以前ネットで読んだことがありますが、これはそのより詳しくなった書籍版だと思っていいのでしょう。
 本書の要点は二点あり、ファシズムそのものについて知ることができる、というのが一点(前半に概説があります)、そしてファシズム体験学習の講義の効用と、その講義ノウハウについて知ることができる、というのがもう一点となります。
 自分自身がファシズムに容易に絡め取られていく、ということを体験させ免疫をつけておく、というのはなるほど面白い試みではあるのかなと。寝た子を起こすな的な批判への論駁や、また実際上の身体的、心理的危害に繋がりかねない危険性に対する安全措置などの詳しいノウハウが書かれているのもありがたいところ(これは実際に講義を運営しようかと思っている教員に向けたものであると同時に、読者からの指摘に対する予備的措置でもあるのでしょう)。


■ルソー『社会契約論』
 ちょっと思うところあって実は読んだことがなかった『社会契約論』に手を出したわけですが、やはり集団的自己決定というのがルソーの議論のキモなんでしょうかね。カント的自律の議論とパラレルなのでしょう。
 議論の核となる部分とは別に、やはり時代性に囚われているなあ、とかオリエンタリズム丸出しだな、とか色々思うところはあるわけですが、当たり前に知っていると思っている議論であっても、直接本人の文章(の和訳)に当たってみるのもやはり必要ですね。
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
西アジア史が好きな一介の歴史好き。歴史理論にも興味があり哲学関係の本も読みます。
望月桜先生の『囚われの歌姫』を考証面でお手伝い中。

当ブログは管理人が読んだ本を紹介したり、書いた文章を公開したりするための場です。執筆記事は西アジア史関係が多いですが、読書は西アジアにこだわらず地域・時代を広く浅く扱っています。
当ブログの内容を雑誌・書籍等にご利用されたい場合はご一報下さい。
管理人への連絡は下記メールフォームか拍手でどうぞ。

検索フォーム
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセスカウンター
リンク
月別アーカイブ