蒼き海狼/火坂雅志


 三度目の元寇はある――元の内情を探るため、故国を持たぬ男、朝比奈蒼二郎は日本の間諜として大陸へ赴く。
 流鬼国(樺太)、蝦夷地から琉球までの列島・中国・ベトナム(北ベトナムの大越、南ベトナムの占城)を股にかけた広大なスケールで描く冒険歴史小説。
 
 日本のスパイが大陸へ渡って諜報活動をし、果てはベトナムで義勇軍としてモンゴルと戦うという。最初に粗筋を聞いた時はどんなトンデモ小説かと思ったが、これが意外となかなかきちんと取材してあり、興味深かった。浅学にて知らなかったのだが、そもそも日本の間諜が大陸へ渡っていたのは元の記録にも残っているのだという。

 執権の一族北条氏に挑発され、将軍御所を襲撃した朝比奈義秀という男がいる。史実では義秀は将軍御所襲撃失敗の後消息不明となっており、一説には高麗に逃れたらしい。
 その高麗の耽羅島(現・済州島)で義秀の孫として生まれ育ち、宋人の母を持つため日本語・宋語・高麗語、そして耽羅島がモンゴルに占領され、一時期強制労働させられていたためモンゴル語をも学び、日本に渡ってきたのが朝比奈蒼二郎、本作の主人公である。

 前半部の中国での諜報劇も面白いが、個人的にはベトナムの英雄、陳興道が活躍する後半部が好きである。モンゴル帝国ものは数多いが、何分世界帝国なだけあってモンゴルを撃退した国の中でもエジプト・日本あたりには光があたるのだがベトナムは脇に追いやられていることが多い。そういう状況のなかでかなり詳しくモンゴルのベトナム来寇について描写した本作は貴重だと言わねばなるまい。

 ラストは少々尻切れトンボの感も無いではないが、一風違った元寇ものとしてお勧めしたい。
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鉄勒京二

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