物語 中東の歴史/牟田口義郎


 中公新書の「物語 ~の歴史」シリーズは概してハズレが無いと思うのだが、その中でもオススメの一冊。高校世界史レベルの知識があれば特に用語集などを用意せずとも読めるだろう。中東史の入門用に適していると思う。
 内容はタイトル通り中東(ペルシア~アラブ~トルコ等)の通史。とは言ってもイスラム化後の中世の記述に大半のページが割かれており、反十字軍関連の記述のためだけに買っても十二分に元は取れた。特にバイバルスに一話を割いてあるのは貴重。

 参考までに言っておくとこのブログの読者が気にしているであろうドイツ騎士団の記述は無い。ただし、十字軍周辺の歴史は知っておかないとドイツ騎士団についても分かりづらいだろうし、さらに言えば西洋側からの資料を基にした本だけを読むと見方が偏るので、この類の本の知識も必要だろう。

 しかし、著者の牟田口先生自身が日本の中東史家の草分けの一人とあって、これまた中東に肩入れしすぎた少々バイアスのかかった見方があるのも否定できない。
 フリードリヒ2世に関する話など、アミン・マアルーフの記述を丸飲みにしているが少々疑ることも必要ではなかろうか。教皇がフリードリヒを破門したことに関して、まるで十字軍問題のみが原因であるかのように書かれているが、イタリア政策諸々の要素もあったはずだ(もっとも、そうであってもフリードリヒは正しかったと思うが)。
 ただ、中東=よくわからないところ、という印象を持っているような日本人に対して、西洋の史観に対するカウンターという意味では、これくらい中東寄りの方がバランスが取れるかもしれない。

 何にせよ、新書としては傑作なので是非読んでもらいたい。

章立て

序章 中東の風土 ――われわれの認識は確かか
第一話 乳香と没薬 ――古代を知るためのキーワード
第二話 女王の都パルミラ ――西アジアで一番美しい廃墟
第三話 イスラム帝国の出現 ――噴出したイスラーム・パワー
第四話 「蛮族」を迎え撃つ「聖戦<ジハード>」 ――反十字軍の系譜
第五話 風雲児バイバルス ――十三世紀の国際関係
第六話 イスラム世界と西ヨーロッパ ――中世から近世へ
第七話 スエズのドラマ ――世界最大の海洋運河をめぐって
プロフィール

鉄勒京二

Author:鉄勒京二
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